注目ポイント
人間の最大の強みは心に余裕があることで、そのため他の生物とある程度、感情的な関係を築くことができるのだ。「寄生獣」の物語で最も強調したかったのは、その余裕を正しいところに使い、人間と他の生物が生存のために競争をする敵同士にならないようにすることだろう。
浦沢直樹氏は「YAWARA!」の完結後、もともとサスペンス漫画の分野に挑戦したかったが、出版社から女子スポーツ漫画を描き続けてほしいと言われ続けて、結局、一時的にこの考えをあきらめたという。代わりに「MASTERキートン」を連載しながら、「HAPPY!」を描き始めた。
しかし、その直後、「YAWARA!」の完結前に連載していたスリラー漫画が徐々に話題になり、自分の当時の判断を信じて、もっと早くこの分野の作品に着手しておけばよかったと浦沢氏は大いに悔やんだという。この気持ちから、彼は「MASTERキートン」が終わり次第、その素晴らしい作品に応える形で、理想的なサスペンス漫画の連載をすぐ始めると決めた。その直後に彼の代表作「MONSTER」が誕生したのだ。
浦沢氏が最も感嘆した漫画といえば、岩明均氏の「寄生獣」だ。
この作品は、テニスボールほどの奇妙なパラサイトの卵が空から降ってきて、その幼虫が人間の体内に入ると頭部を乗っ取ろうとし、寄生した頭を自在に変形させる能力を持っており、他の人間を主食とするという記述から始まる。

© 講談社
平凡な高校生、泉新一がパラサイトに侵されそうになったとき、頭部への寄生から免れるために右手でパラサイトをブロックし、さらにイヤホンのコードで自身の腕を締め付けたため、偶然にも右腕にパラサイトが住みつき、両者の間に奇妙な共生関係が生まれたのだ。しかし、他のパラサイトが徐々に人間社会に溶け込み、定期的に捕食するようになったため、泉新一と彼が「ミギー(右)」と名付けたパラサイトは危機に陥る…。
かつて浦沢氏は「寄生獣」という作品に応える必要があると感じていた。だが、いつも登場人物に、自由自在に物語を展開させる浦沢氏の作風に対して、岩明氏の作風はまったく異なった。岩明氏は漫画全体のシナリオを決めた後に、それに合わせて登場人物を構築することを好み、その方が自分に合っていて、創作しやすいと考えているのだ。
しかし、「寄生獣」の発想から連載までの間に、実は多くの変化があり、物語のテーマさえも調整されるほど大きな変動もあったのだ。
例えば、「寄生獣」は当初3回のみ連載される予定が、後に3話、5話の単行本シリーズになったと思いきや、続いて7話で完結する予定が9話まで伸び、最終的に全10話でやっと全ての物語が終わったのだ。
当初、岩明氏がプロの漫画家になる前に投稿しようとした題材は、私たちが今見ているものとは全く違うものだった。もともとは、「主人公の手には自分の命がある」という発想を通して、ラブコメディーを作り上げる予定だったのだ。ところが、この発想が実は、かなり一般的なテーマであることにすぐ気づき、ひとまずこの発想を封印することにしたのだ。