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香港メディア界の実力者で中国政府に批判的な黎智英(れい・ちえい=ジミー・ライ)被告(74)が、香港国家安全維持法(国安法)違反で起訴された裁判が、1日に初公判を迎える。米紙ワシントン・ポストは、「ジミー・ライ氏だけではなく、香港の言論の自由が裁かれる」と危機感を示した。また、同裁判では外国人弁護士の参加を認めた香港終審法院(最高裁)の判断を中国政府が見直す可能性が大きく、香港の司法制度の独立性も一段と後退する。
香港特別行政区トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は11月29日、国家安全保障に関する事件に、外国人の弁護士が香港の法廷に立つことができるのかについて、北京の中央政府が「非常に懸念している」と述べ、今後の指標となる法的解釈が間もなく発表されると述べた。
香港終審法院は11月28日、国安法違反容疑で拘束中のライ被告の代理人を「英国人の弁護士でも務めることができる」との判決を下した。それを受け李長官は同日、北京の立法機関に対し、外国人弁護士が安全保障問題に関与することを禁止する香港行政府の要求に対し、判断を求めた。
香港では昨年6月、反政府的な活動を取り締まる中国の「香港国家安全維持法」が施行された。中国からの分離独立や中央政府の転覆、テロ行為、外国勢力との結託とみなされる行為を禁止するもので、違反すると最高で無期懲役が科される。
ライ氏は香港で日刊紙・蘋果日報(リンゴ日報)やインターネットメディア「壹傳媒(Next Digital)」を創業。民主活動家として香港で最もよく知られる人物。中国が導入した国安法に違反したとして、ライ氏は2021年2月に起訴され、拘留が続いている。中国・広州出身の同氏は香港に永住権を持ち、英国市民パスポートを所有する。
ワシントン・ポスト紙によると、ライ氏は手書きの手紙に、「正義を守るのはジャーナリストの責任」であり、「まさにこれを愛し、大切にする必要がある。ひとつの時代が崩壊しつつあり、私たちが立ち上がる時が来た」と記した。
同紙は、ライ氏が貧困から裕福になった数十年を含め、その〝時代〟とは、香港が言論の自由、自由な企業活動、法の支配が標識として立った時代だったとした上で、中国は、1997年に英国からの香港返還の際、そのようなシステムを維持することを約束したと指摘。
だが近年、それは約束が反故にされ、領土を中国本土の権威主義体制に吸収し、市民の抗議行動を取り締まり、反体制派やジャーナリストを逮捕。2021年2月24日、同局はリンゴ日報の資産を押収し、発行部数10万部(デジタル版61万部)だった同紙は、同安全維持法違反で同年6月、廃刊に追いやった。
その間、ライ氏は19年10月に無許可集会に参加したとして、21年4月に禁錮1年2か月の実刑判決を受け、さらに同年5月には19年の他の集会にも違法に参加したとして新たに禁錮1年2か月の実刑判決を受けている。
一方、29日の記者会見で李行政長官は、中国の全国人民代表大会常務委員会が外国人弁護人の問題について「できるだけ早く判決を下すことを期待している」と語った。ライ氏の裁判は1日に予定されているが、李氏は香港当局が裁判開始の延期を求めていると述べた。