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欧州のコカイン売買の3分の1を支配するとされる大規模な麻薬〝スーパーカルテル〟を撲滅するため、6か国の司法当局が協力し、過去最大となる計33トンに上るコカインを押収、取引に関与したとされる主犯格6人を含む容疑者49人を逮捕したと欧州連合(EU)の捜査機関が今週発表した。
欧州刑事警察機構(ユーロポール)により「砂漠の光作戦」と命名された今回の国際捜査で、当局は今月8~19日、欧州各地やアラブ首長国連邦(UAE)の組織のアジトなど関連施設を捜索。スペイン、フランス、ベルギー、オランダとUAEの5か国で大量のコカインを押収した。「砂漠の光作戦」にはこれらの国の警察及びユーロポール、米麻薬取締局(DEA)が連携して捜査を進めたという。
ユーロポールの当局者は、「容疑者らによるコカインの欧州への密輸の規模は膨大で、売買には暗号化された通信手段が用いられた」と語った。また、オランダの司法当局は声明で、「これらは、主に南米からベルギー・アントワープとオランド・ロッテルダムの港を経由した国際的な麻薬密売に関連する重大な犯罪である」と強調した。
今回の捜査で押収したコカイン33トンは、末端価格23億5000万ドル(約3250億円)に相当する。逮捕者の数は、UAEのドバイで主犯格6人、スペインで13人、フランスで6人、ベルギーで10人などとなっている。ユーロポールが公開した動画には、DEAやスペイン治安警察などの捜査官が容疑者を拘束し、高級車や隠された現金を押収する様子がとらえられている。
一方、6人の主犯格が拘束されたドバイでは、2019年に同首長国で拘束されたオランダ犯罪組織リーダーのリドゥアン・タギ被告とのつながりを持つオランダ人の「大物」容疑者が含まれていた。オランダ公共テレビNOSによると、この容疑者は、同作戦で拘束されたアイルランドとイタリアの麻薬組織のリーダーと協力関係を結んでいた。6人の内訳は、オランダ人2人、フランス人2人、さらにスペインに関連した2人だった。
EUの専門機関「欧州薬物・薬物依存監視センター」によると、欧州では20年に前年比6%増のコカイン214トンを押収。昨年2月には、ドイツ税関がコカイン約23トンを押収。当時は欧州史上最大の押収量だと発表した。
同センターは、22年はさらに押収量が増え、330トンに達する可能性を指摘した。
専門家によると、欧州でのコカインの末端価格は高く、南米のカルテルにしてみれば非常に魅力的だという。コロンビアから船で密輸されたコカインの多くは、米国ではなく、パナマやメキシコの港でコンテナに積み込まれ、最も忙しい北欧のハブに向けて出荷される。
ブラジルの港は、ボリビアのコカインの輸出の中心地にもなっており、コカインは曲がりくねった国境を越えるルートで密輸され、欧州向けのコンテナに積み込まれるという。
荷受け側のオランダ・ロッテルダムでは、〝抽出業者〟と呼ばれるコカイン回収チームの小規模な家内工業が点在。彼らは港に潜入し、インバウンドの輸送コンテナから違法な商品を回収する。21年だけでも、ロッテルダム当局は70トン(末端価格50億ドル=約6900億円)相当のコカインを押収し、抽出業者400人を逮捕している。