2022-11-29 政治・国際

台湾・統一地方選「民進党大敗の構造は10月末に固まっていた」

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注目ポイント

中国が圧力を強める中で行われた台湾の統一地方選は、与党・民進党が記録的な大敗を喫し、蔡英文総統は責任を負って党主席(党首)を辞任した。だが総統選や、国会議員に相当する立法委員選とは違い、外交・安全保障問題は争点とはならず、経済政策など内政面で課題山積の与党に対し、各地の有権者が「ノー」を突き付けたかっこうだ。台湾の選挙に詳しい東京外大教授、小笠原欣幸氏が今回の台湾・統一地方選を総括した。

桃園市は国民党にとって支持者が多い「鉄票区」であったが、2014年に現市長の鄭文燦氏が当選してからは民進党の支持が広がり、20年の総統選で蔡英文氏の得票増にもつながった。民進党としてはこの北部の新たな拠点を何としても守りたかった。しかし、鄭文燦氏が市政でも党支持拡大でも卓越した能力を見せただけに、逆に誰が後継候補になっても物足りなく見える逆説的状況に陥った。

そこで、蔡英文主席が主導する民進党の選挙対策委員会は、新竹市で8年市長を務めた林智堅氏を横滑りさせることを考えた。若手の林は人気が高く、次世代のリーダー候補とも見られていた。桃園市はIT関連産業が発展し台湾各地から新たな住民が移り住み、また、桃園市・新竹県・新竹市は昔から共通の地域圏の感覚があり、新竹市の人材を持ってくることに対しては、それほど違和感があるわけではない。

しかし、民進党は公認候補を決める予備選挙を飛ばして直接林智堅氏を擁立したことが党内に禍根を残した。そして、その林智堅氏の修士論文の不祥事が発覚した。新竹市長に当選する前に新竹市の中華大学の大学院の社会人修士課程で修士号を取得。さらに市長就任後、台湾大学の社会人修士課程で修士号を取得していた。

高学歴に対する社会的評価の高い台湾ではこれは市長の美談であった。ところが、その2つの修士論文の両方に盗作疑惑があることが国民党の議員によって暴露された。若手でクリーンなイメージで売っていた林智堅氏にとって大打撃となった。しかも、この盗作疑惑が明るみに出た時、民進党は蔡英文党主席を先頭に「林智堅氏を信じる」として党全体で林氏をかばう姿勢をとった。これが日ごろ是々非々を論じている民進党のイメージダウンにつながった。その後、2つの大学が論文の調査委員会を発足させ、結局両大学とも不正を認定する結論を出した。筆者が意見を聞いた台湾の学生数名も「大学の調査結果が出る前にかばったのは印象が悪い」と語っていた。

結局、林智堅氏は出馬を辞退し,地元立法委員の鄭運鵬氏が公認候補となったが、このプロセスに不満を持った党内のベテランで前立法委員の鄭寶清氏が無所属で出馬した。これも民進党の気勢をそぐ要因となった。鄭運鵬氏は勢いを得ることはなかった。

このように注目度の高い台北市、桃園市で民進党候補に勢いがでなかったことが全体的に民進党の低迷につながった。

 

その他主要選挙でつまづき続けた与党

新北市の人選でも民進党はつまづいた。再選が有力視される侯友宜氏に対抗できる候補者がなかなか見つからず、当初台北市長選挙への出馬を狙っていた林佳龍氏を公認候補としたのだが、新北市民からすると「第二希望」で出馬した候補を熱烈に支持するという気にはならなかった。

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