注目ポイント
世界でも有数の政治熱がある国、台湾。選挙活動に厳格なルールが設けられている日本と異なり、建築の壁面を覆う超巨大バナーや横断幕などを使った賑やかなアピールが繰り広げられ、選挙期間中は街全体が熱気に包まれる。台湾を拠点に活動するデザイナーが、選挙戦を盛り上げる選挙ポスターのデザインに焦点を当て、日本と比較しながら、2回に分けて解説していく。
前回の記事では、日本と台湾の選挙のための広報物の違いをルールや制度、習慣といった視点から紹介したが、今回はデザインの構成要素、レイアウト、カラー、写真の4つに分解し細かく見ていく。

①構成要素
日本の選挙ポスターと台湾のバナーや横断幕などの広報物には、選挙制度や習慣からレイアウトされる要素が微妙に異なっている。
台湾と日本の両国どちらも写真、候補者名、政党名、キャッチコピー、政策などの要素がレイアウトされているが、日本において投票用紙に漢字以外にひらがなやカタカナで記入することも認められているため、ポスターに振り仮名が記載されていたり、優しい印象を訴求する意図もあってか、ひらがな表記で氏名が書かれてる場合も多い。
また細かな点としては、掲示責任者の氏名と住所を掲載しなければならない決まりとなっているため、ポスターの端に非常に小さく配置されている。こういった細かなルールと、小さな工夫が日本らしい印象を受ける。

とりわけ選挙の広報活動において、自由度の高い台湾でも「お決まり」のパターンが、1つある。それは、丸い白い枠が配置されていることだ。これは候補者番号を記入するための枠で、投票日のおおよそ1ヶ月前に抽選が行われ、確定した後にその番号を記入することになっている。その番号が重要な理由としては、台湾の投票用紙に候補者名とその候補者番号が印刷されているためだ。

また台湾の政党には、それぞれのロゴマークを丸にデザインし、広報物に利用するといった風習がある。これは中華民国としての台湾を興した国民党の影響だと私は推測しているが、非常にユニークだ。デザイン言語を統一していることで、使い勝手も良くなり広報物だけでなく、開票速報などでテレビでも利用されている。

②レイアウト
日本では、投票用紙に投票したい候補者の氏名(場合によっては政党名)を自筆で書くことになるため、有権者に名前を認識してもらうことが非常に重要になってくる。
そのため顔の横に名前を縦書きにレイアウトするというのが主流となっているが、このように顔と名前を横に並べることで有権者へ効果的に印象付けることができる。特に国政選挙の場合は、一般的なポスターに見る縦長の比率ではなく、正方形に近い比率(42×40cm)となっているため、レイアウトの効率からしてもその傾向は顕著だ。

台湾では、非常に多様なメディアで制作されているため、バラエティー豊かな広報物となっていて、非常に賑やかな印象がある。しかし全てのメディアを想定してキービジュアルをデザインできない点と、デザイン制作のための作業量が増えるため、質の高いデザインにすることが困難となっている。特に様々な条件下でレイアウトされるため、効率がよくないレイアウトになってしまい、計算されていない不思議な余白や、信号機などで重要な部分が見えなくなってしまった広告を見かけることも少なくはない。
