注目ポイント
この十年あまり、世界で知られるようになった台湾の料理や食品と言えばタピオカミルクティや小龍包が挙げられるが、刈包(グアバオ。蒸しパンに豚肉や漬物を挟んだ料理)も忘れてはならない。パンにはさんだ肉はおいしく、片側だけが開いたパンの形状は、さまざまな創意をかきたてる。台湾語でグアバオと呼ぶこの料理のことを、あなたはご存知だろうか。
文・鄧慧純 写真・林旻萱 翻訳・山口 雪菜

刈包(「割包」とも書く)は台湾伝統の美食である。蒸しパンの間に豚肉、ピーナッツ粉、酸菜(高菜漬け)、香菜(コリアンダー)などを挟んだものだ。まるで虎が大きな口を開けて肉にかぶりついているように見えるため「虎咬猪」とも呼ばれ、その発音から転じて「福咬住」とされ、縁起の良い食べ物とされる。

刈包の起源
最初に刈包が書物に出現するのは1927年の黄旺成の日記で、「今日は旧暦の尾衛(忘年会)、従業員を労うために虎咬猪を作るらしい」とある。台湾の食文化を研究する台湾師範大学台湾語文学科の陳玉箴教授は、この一文からこう解釈する。「『刈包』は、昔は『虎咬猪』と呼ばれた。文献によれば、当時は主に商人が食しており、庶民の間には普及しておらず、特定の季節のみに供されたようだ」物資が乏しかった時代、豚肉もめったに口に入るものではなく、刈包を食べる機会は特別な日や忘年会、祭りの時などに限られた。
刈包の蒸しパンは小麦粉で作られている。陳玉箴によると、台湾は米食が中心だが、清の時代から小麦粉も食べられていた。ただ、小麦粉は高価な輸入品であり、庶民にはなかなか手の届かないものだった。
陳玉箴が昔の新聞を調べたところ、刈包が庶民の間に普及したのは1970年代以降のことで、新聞の生活欄に登場するようになった。

海外へ進出
長年外国に暮らすフードライターの蔡珠児は、海外での刈包の流行を観察してきた。「わずか20年の間に刈包は海外でよく食べられるようになった」と言う。「刈包は食べ物の一つのモチーフである。その構造はパンの間に何かを挟んだもので、これに類する食べ物は世界の多くの食文化の中にある。イギリスのサンドイッチ、アメリカのハンバーガー、イタリアのパニーノ、ベトナムのバインミー、中国西安の肉夾饃、中東のケバブなどだ」このように類似した食べ物が多いからか、外国人の多くは台湾の刈包に違和感を持たず、受け入れられやすいのかも知れない。
海外での刈包ブームについて蔡珠児はこう説明する。まず2006年に韓国系アメリカ人のデビッド·チャンがマンハッタンに開いたMomofukuが刈包とラーメンを打ち出して有名になった。2009年には台湾系二世の黄頤銘がニューヨークに本格的な台湾刈包の店BAOHAUSを開き、祖母から教わった豚バラ肉の味を売り物にした。
ヨーロッパでは2013年、台湾人女性の張爾宬と夫の香港系イギリス人の鍾承達が東ロンドンのマーケットに刈包の店を出し、2016年にはロンドンのソーホーに台湾軽食の店を出した。看板には大きく「BAO」と書かれており、今では6店舗を展開、7年連続してミシュランのビフグルマンに選ばれている。このほかに、香港の「Bao Wow」「Little Bao」、バンクーバーの「Bao Down」など、いずれも店名に「Bao」、つまり「包」の発音を使っている。以前は「包」はSteamed bunと訳されていたが、刈包がブームになるにつれて、Baoが世界に共通する言葉となった。