2022-11-11 政治・国際

英国トラス前首相のスピード辞任から台湾が参考にすべき場面とは

注目ポイント

10月1日の世論調査によると、トラスの支持率は18%しかなく、不支持率は55%に達し、差し引きで得られるマイナス37ポイントは、すでにジョンソン元首相が辞任して退陣したときよりも悪化していた。これに対して、トラスも一連の「ヘアピンカーブ」を行った...

 

イギリス女王、エリザベス2世が亡くなる数日前に、新首相のアレックス・トラス氏が就任していた。強硬な保守党の党首として、支持者はイギリス史上初の女性首相であったマーガレット・サッチャーチャ同様、「新しい鉄の女」と呼んだ。

1980年代、サッチャー夫人の改革への執念は、やがてイギリスを不況から脱却させることになった。トラス氏も経済活性化も最優先課題としていた。9月23日の新経済政策の発表後、国内外から強い疑問の声が上がったのは予想外だった。

常に正しい道を歩むことを主張してきたトラス氏だったが、ついに圧力に屈し1週間も経たないうちに、政策内容の一部が撤回されるという、なんとも恥ずかしい事態となった。今回は、就任1か月足らずの新首相が、なぜこれほどまでに騒がれたのかを探ってみた。イギリス国民はどれほど大きな経済圧力に直面しているのか?この件で台湾の参考になるような場面はあるのだろうか?

インフレの中、減税する新イギリス首相の財政計画

9月6日に首相に就任したトラス氏は、イギリスを新しい時代に導くと約束した。9月23日には首相として初めて国会に足を踏み入れ、減税とエネルギー価格の抑制を強調した新しい政策を発した。インフレの危機から脱し、将来の経済成長を刺激するために、減税とエネルギー価格をコントロールすると強調した。

現政権は、人々が手に負えない請求書に追われないよう、そしてインフレを抑制し成長を促すために、新しいエネルギー価格保証の導入に即座に行動した。

トラス氏は「高い税率はイギリスの競争力を損ない、労働、投資、も「起業への意欲を減退させる。税率が高ければ高いほど、人々は脱税しようとしたり、海外で働いたり、そもそも働くことから逃げようとする」とした。

国民の節約を助け、企業がコストを削減するのを助けるために、すべてが良いことのように聞こえるが、問題は減税により、2027年まで450億ポンドの税収が縮小され、エネルギー価格の保護により、最初の6か月で600億ポンドが財務省の負担となると試算されていた。しかし、政府は財政支出の削減策を打ち出さず、借金、つまり国債の発行に頼って対処するつもりで、イギリスの財政はすでに苦境に立たされており、これでは困難に拍車がかかるのは明らかだった。

特に、一連の減税措置には、最高所得税率を45%から40%に引き下げることも含まれており、収入が最も高い富裕層にとっては税金を節約することになる。この措置は、全減税額のうち大きな割合を占めるものではないが、物価の高騰や電気・ガス料金の高騰でイギリス国民が圧迫されている状況のなか、国民は特に苛立ちを感じていた。

財務大臣は、1970年代以降で最大規模の減税策を発表した。これに金利上昇やエネルギー価格の高騰で避けられない政府債務の押し上げが加われば、4000億ポンドを超える非常に大きな負債となり、財政の均衡が保てなくなることが懸念されていた。

政府が発表したエネルギー法案の補足案は、低・中・高所得者に関わらず、家計に十分な支援を提供するものだが、発表された減税は高所得者層、特に上位の富裕層により焦点を当てたものになっていた。

イギリスのシンクタンク、レゾリューション財団の最高責任者 トーステン・ベル

英ポンドは下落し、国民の不満は高まる... トラスの厄介な政策ヘアピンカーブ

トラス氏と財務相の財政法案には、否定的な意見が殺到した。イギリスの財政の安定性に対する懸念は、直ちに為替市場に反映された。これを受けてポンドは対米ドルで急落し、一時は1ポンド=1.033米ドルの史上最低水準まで下落した。長年、世界のトップクラスの通貨であった英国ポンドにとって、米ドルとの等価交換は考えられない光景だった。

一般大衆にとって、英ポンドの価値が下がることは全ての輸入品の価格が高くなることを意味する。もともとロシア・ウクライナ戦争で値上がりした石油と天然ガス以外、イギリスでは46%の食料を輸入しているので食糧価格が高くなる。外国で製造された全ての携帯電話や自動車などの商品も同じだ。冬を目前に、社会的弱者は飢餓か凍結かの選択を迫られたのかもしれない「本当は値上げする勇気がない。今の客数は悪くないので、彼らを失いたくないが、毎日何かが値上がりして、どう乗り越えればいいのか分からない」とフィッシュ&チップス事業者は嘆いていた。

物が高価になるだけでなく、これらの商品が値上がりすると、イギリスが直面するインフレの圧力がさらに高まると予想され、イギリス中央銀行は金利を引き上げなければならない。これは不動産市場にも衝撃を与え、銀行は新規の住宅ローン発行を停止するか、既存の住宅ローンの金利を引き上げるなど、戦略の調整を余儀なくされ、国民は恐らく負担しきれなっただろう。

国民の不満は世論調査の数値にも反映されていた。10月1日の世論調査によると、トラス政権への満足度は18%しかなく、不満足度は55%に達し、差し引きで得られるマイナス37ポイントは、すでにジョンソン元首相が辞任して退陣したときよりも悪化していた。保守党の議員の中には、この提案に反対票を投じると公言している人もいたほどだ。トラス氏が保守党の党首に選ばれたのはジョンソンの辞任があったからであり、総選挙で国民の審判を受けておらず、政権を担う正統性に欠けるとの見方もあった。

圧倒的な圧力に直面したトラス政権は、10月3日、ついに軟化し、予定していた所得税の最高税率の引き下げを撤回すると発表した。しかし、それでもトラス氏は、これは政策のほんの一部に過ぎず、全体としてはまだ有効な戦略であると強調した。記者団から「自分の方針は正しかったのか」と質問されても、自分の間違いを認めようとしなかった。


米国の金利引き上げが台湾を動かす

富裕層減税の廃止に伴い、ポンドは下げ止まって一時的に新政策前の為替水準に戻り、英国債の金利もひとまず安定した。しかし、専門家によれば、英国政府の財政的信用は失墜したという。Saxo UKのシニアビジネストレーダー、マスターズ氏は「所得税の最高税率が引き下げられなくとも、ポンドの反発は英国の財政を助けるほど強くない」と分析した。

しかし、トラス氏が言ったように、国際環境は非常に厳しい。エネルギー価格の高騰とインフレに直面している国は、決してイギリスだけでなく、ほとんどの国がそうである。財経ニュースを専門とするTNL記者の荘貿捷氏は「アメリカもインフレの影響を受けたことにより、連邦準備制度理事会(FRB)は阻害要因として金利の引き上げを決定し、この決定が各国に影響を与えることになった」と話す。

米国連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレに迅速に対処し、景気を冷え込ませるために、金利を引き上げることを決めた。

多くの人が「インフレに打撃を与え、経済が冷え込むのは、経済全体に良くないことではないのか?」と疑問に感じるだろうが、実際、短期的には影響があるが、長期的にはこの構造は経済の安定にとって良いと言える。

したがって、この金利上昇の理由は、多くの金融市場にある。何度も株式市場の嵐を感じてきた台湾と同じで、実はとても深いつながりがあるのだ。

アメリカは世界最大の経済国なので、台湾中央銀行は米国連邦準備制度に従って金利を引き上げざるを得なかった。その結果、一般消費者の衣食住や交通機関への支出に直ちに影響が出るわけではないものの、経済全体としては確実に低迷することになるだろう。

米国の金利上昇率が大きければ大きいほど、台湾の追随性も高くなる。金利の引き上げ幅が大きくなると、住宅ローンや自動車ローンなど、銀行の貸出コストが高くなり、こうした短期金利も高くなる。

借入コストが高くなると、金融市場での流動性が徐々に緩やかになり、連動して株式市場、債券市場、為替市場も同じように緩やかになっていく。そしてアメリカの市場に流れていくので、今の台湾の景気は低迷していると感じられる。

実際、人々の生活を安定させるために、政府も動き出している。日本では、エネルギーや食料の価格上昇に対処するための家計への現金補助が始まり、インドでは、新型コロナウィルスの流行開始以来、8億人に米や小麦の無料配布が定期的に行われており、総予算の9%を費やしてきた。イギリスの経済政策が手をこまねいていることのリスクの方が高すぎるかもしれない。しかし、新型コロナウィルスや戦争の影響を受け、世界各国はこの経済的混乱期をどう乗り切るかを考えなければならず、台湾も例外ではない。


 

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