注目ポイント
アインシュタインの相対性理論によると、ブラックホールとは光でさえ逃げることができないほどの強力な引力があり、「広大な宇宙にある最も恐ろしい存在」という印象だ。そんなブラックホールの中で、地球に最も近いものがこのほど新たに発見された。しかも、地球からは「裏庭」ほどの距離だという。
「ガイアBH1」と名付けられたブラックホールは休眠状態にあるが、その質量は太陽の10倍。地球からの距離は約1600光年で、へびつかい座に存在することが分かった。これまで地球から一番近いとされたいっかくじゅう座にあるブラックホールと地球の距離は約4700光年。実に3分の1ほどの〝近距離〟で、米NSF国立光赤外線天文学研究所は、ガイアBH1が「裏庭ほど近い」と表現する。
ガイアBH1を発見した研究チームを率いる米ハーバード&スミソニアン天体物理観測所の宇宙物理学者カリーム・エル・バドリー博士は、「これまでにも多くの新発見とされる報告があったが、ほとんどはブラックホールになりすました連星系の群れで、偽物だった」とした上で、今回の発見は紛れもない恒星ブラックホールだったことを発表した。
恒星ブラックホールとは超新星爆発によって生まれるブラックホールで、もっとも一般的なブラックホールとされる。ちなみに、太陽の30倍以上の質量の恒星でない場合は、重力崩壊が進まずブラックホールにはならない。また、恒星ブラックホールの質量は、ほとんどの銀河の中心に存在すると考えられている超大質量ブラックホールの5~100倍にもなるという。
発見に至る長い道のりは、天の川銀河の星を分類することで知られる欧州宇宙機関(ESA)のガイア宇宙観測所から始まった。ガイア衛星の宇宙望遠鏡によるデータを分析していたエル・バドリー氏ら研究者らは、太陽に非常によく似た星を発見し、その星が移動する際、何かの影響を受けて特徴的な揺れを示していることに注目。その〝何か〟の正体が、休眠中のブラックホールであることを突き止めた。
休眠中のブラックホールは、強力なX線や宇宙ジェットを吐き出すなど目立った活動をしていないため、周囲に溶け込んで発見は極めて困難だったという。「このブラックホールを発見できた唯一の理由は、(その周りを周回している)星の位置を非常に高い精度で観測できるガイア衛星の能力によるものだった」とガイア宇宙観測所のティネケ・ロエジャース研究員は明かした。つまり、「目に見えない巨大な天体」の重力によって引き起こされたと考えられる恒星の不規則な動きが観測できたことにより、ガイアBH1の存在が確認されたのだという。
エル・バドリー氏の研究チームはまた、他の観測所の望遠鏡の協力も得た。米国立光赤外線天文学研究所が運営するハワイ・ジェミニ天文台の望遠鏡は、ガイア衛星により見つけられた星の軌道を正確に測定するという重要な役割を果たした。