注目ポイント
台湾の人気バンド・蘇打緑(ソーダグリーン)のボーカルで知られる呉青峰(ウー・チンフォン)さんが、3rdソロアルバム「馬拉美的星期二(マラルメの火曜日)」をリリース。日本人アーティストとのコラボ曲も多く収録された一作、制作の舞台裏をワールドミュージック評論家の関谷元子さんが綴ります。
台湾の人気アーティスト、呉青峰(ウー・チンフォン)が新作アルバム「馬拉美的星期二(マラルメの火曜日)」をリリース、日本でも配信されている。

「マラルメの火曜日って何?」と思われるからもいらっしゃるのでは? 実は私もこのアルバムで得た知識です。さっそく披露します(笑)。
ステファヌ・マラルメは、19世紀のフランス印象派の詩人で、毎週火曜日に自宅をサロンのようにして、アーティストを招き芸術などについて語りあっていたそうだ。
ここ招かれた唯一の音楽家が作曲家のクロード・ドビュッシー。マラルメが書いた詩「牧神の午後」をもとにドビュッシーは「牧神の午後への前奏曲」を作曲した。
青峰は、マラルメのようにサロンを開き、このアルバムで様々なアーティストを招いた。12曲全曲が青峰と12のアーティストとのコラボレーションになっている。うち4曲が日本人アーティスト。小野リサ、和楽器バンドの蜷川べに、大橋トリオ、佐藤芳明。
青峰が中華圏で絶大な人気を誇って来たソーダグリーン(蘇打緑/今は名前を変え魚丁糸=ユイディンミー)というバンドのボーカルであることは、中華ポップス・ファンならご存じかと思う。
そして私はというと、ソーダグリーンのデビュー時からの知り合いということもあり、今回、青峰がコラボレーションしたアーティストのうち、大橋トリオと佐藤芳明を青峰と引き合わせるという役割を果たしたこともあった。今回はそんなお話をしたい。
まずは、アコーディオン奏者・佐藤芳明さん。
ソーダグリーンが「當我們一起走過巡迴演唱會」と銘打ったツアーを行ったうちの2012年3月3日と4日、台北アリーナをソールドアウトにしてライブを行うことになった。
ソーダグリーンのプロデューサーに、日本でセンスの良いヨーロッパ的なアコーディオンを弾けるプレイヤーを探してほしいと言われ、友人に相談したところ、佐藤芳明さんに白羽の矢が立った。
佐藤さんは、パリへの留学経験もあり、日本では様々なアーティストと様々な音楽でコラボレーションをしてきた個性的なプレイヤーだ。椎名林檎のライブに参加した時は青峰と観に行った。
そんな佐藤さんを台北にお連れし、リハーサルから参加した。百戦錬磨の佐藤さんの音は言うまでもなく素敵で、それと共に佐藤さんの人柄であっという間に青峰のお兄さんのようになり、青峰がじゃれているように見えたことさえあった。
今回の来日でも、私がお話しさせていただいているPodcast「スキアジ」にこの2人が出てくれ、変わらず楽しい空間を作ってくれた。その時の話だが、佐藤さんのことを青峰は「秒回の男」と呼ぶそうで、というのも、佐藤さんは青峰がメッセージすると「すぐに返事をしてくれる」からだそう。これを嬉しそうに言う青峰。佐藤さん、「だって青峰から来たらすぐに返事したいよ」と返すと、照れたような笑顔を浮かべる青峰。