2022-11-13 ライフ

連載「あの街の“正港台湾料理店”」第6回:台湾料理 香味(東京都港区)

注目ポイント

正港とは「正統な、本場の」などを意味する台湾語。「あの街の“正港台湾料理店”」は、日本で台湾の食文化にこだわる料理人のストーリーと食を追い求める連載です。第6回目は、ビジネスマンで賑わう新橋に開業して37年、創業以来、伝統の味を守り続ける台湾料理の老舗「台湾料理 香味」を紹介します。

新橋駅から徒歩約4分。数々の飲食店がひしめくエリアで、一瞬で台湾の街の一角にトリップしたような、どこか懐かしい佇まいの「台湾料理 香味」は、多くの著名人を常連客に持ち、テレビや雑誌でも何度も取り上げられている有名店だ。店内はまさに台湾の雰囲気たっぷりで、なおかつ壁にぎっしりと張り巡らされたメニューやポスター、そしていたるところに並ぶ有名人の写真やサインからもお店の歴史が感じられる。

店内に入るとそこはまさに台湾。メニューは丁寧に日本語で解説されており、細かいところまでの配慮が行き届いている。

笑顔で迎え入れて応対してくれたのは台湾出身の二代目店主の河田泰宗さん。先代のお父様から店を引き継いで30余年となる。お店の創業は1985年。1991年から店を受け継いだ河田さんだが、それまでは建築家を目指す生粋の建築マンであった。台湾と日本の相互で建築を学び、霞が関ビルの設計でも知られる台湾の偉大な建築家の郭茂林さんに師事していたのだ。そんな河田さんに、これまでの道のりを伺った。

30年以上にわたってお店を切り盛りする河田泰宗・碧さんご夫妻。料理の味はもちろんのこと、お二人を慕って多くのファンが訪れる。

まず料理の味の基本は、創業時から変わらぬ奥様の碧さんのレシピだ。ご実家が飲食店で、本場の味覚を継承する碧さんの味が、今も昔も、そしてこれからも変わらぬ伝統の味として受け継がれていく。今では多数の熱烈なファンを持つ香味であるが、建築の世界から転身を遂げた河田さんにとって、当初は戸惑いの連続でもあったという。ただ、誠実に一人ひとりのお客様と関わっていくこととに加え、河田さんがトライしてきたことは、新たな発想で料理に対してより良いアイディアを加えていくことだったという。

「美味しい料理は、良い建築と一緒だと思う」と話す河田さんは、建物をデザインしていくような感覚で、料理に様々な工夫を加えてきたという。その代表例がルーロー飯だ。本来脂身の多い肉を多用する台湾のルーロー飯に対して、日本人の好みに合わせて肉の配合を変えて赤みの多い肉へと変更したことにより、日本人の中でも人気となり、次第にテレビや雑誌でも取り上げられるようになっていったという。このようにしてルーロー飯をはじめとした台湾グルメが一気に脚光をあるようになってきたのはいうまでもない。

100種類にもおよぶ数々のメニュー。創業から変わらぬ普遍のレシピで本格台湾料理を求めるファンの期待に応え続ける。

さらに河田さんが着目した点は、日本と同様に海に囲まれた台湾の新鮮な魚介類を使った海鮮料理だ。中国料理と比べて、素材そのものの味覚を大切にする台湾料理において、素材のクオリティや鮮度は非常に重要な要素となる。台湾産の素材を使おうとすれば冷凍食材に頼らざるを得ず、どうしても本来の食感が失われ、輸送コストも問題になる。そこで河田さんが尽力してきたことは、台湾と同等以上の素材を日本国内で調達することだった。そのためにイカやカキ、貝類など、食材の鮮度を保ったまま安定的に供給してくれるネットワークを築いていったのだ。また、日本ではなかなか入手が困難な台湾野菜を栽培する“おばさん”のネットワークまであるのだという。このようにして、最高の食材を使った香味レシピが確立されていったのだ。

河田さんが構築したネットワークを通じて、北海道、千葉、広島など日本各地から新鮮で良質な食材の確保が可能となっている。
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