2022-11-08 ライフ

旧統一教会の勉強会―聖書研究キャンプ体験談―

© Photo Credit: Reuters /達志影像

注目ポイント

霊感商法が大きな社会問題になるちょっと前、筆者は原理研究会(統一教会の学生組織)の女の子に誘われて聖書の勉強会に出て講義を聞いた。聖書の解釈はとても面白くどんどんのめりこんでいき、数か月後には勉強合宿に参加することになった。しかし筆者は信者にならなかった。ゴルゴ13と一本のたばこが筆者を俗世に引き戻してくれたのだ。

大学のサークルで知り合った可愛い女の子のことがずっと気になっていた筆者は、ある土曜日の昼、その子から食事に誘われた。断る理由がないので当然ホイホイついていくと大学の近くのマンションの一室に10人くらいの青年男女が親子丼を用意していて、とても愛想よく私を迎えてくれた。それから毎週土曜日の聖書勉強会が始まった。何か月か勉強会に出てレクチャーを聞いた後、泊まり込みの合宿でもっと深い勉強をしようと誘われて、これもホイホイついていった。埼玉北部だったか群馬だったか忘れたが、合宿所は平屋建ての大きな古民家で、周りには雑木林と畑しかなく、駅からかなり遠い寂しいところにあった。合宿参加者は若い男性が20人くらいだった記憶がある。

食事は三食とも、主食がジャガイモで野菜中心の副菜がついていた。午前、午後、夜の三回、原理研究会の青年が黒板を使って聖書の講義をした。2~3日に一回、裏の空き地に出てタッチフットボールなどをしてストレス解消をした。食事の前と就寝前はみんなでお祈りをした。私はお祈りの言葉をよく知らなかったし、また照れ臭くもあったのだが、とにかくお祈りをした。合宿中はもちろん禁欲生活である。酒、たばこはもちろん、漫画、テレビ、新聞も厳しく禁止されていた。

講義の内容は今ではもうはっきりとは覚えていないが、韓国人教祖が救世主であると信じ、統一教会の信者になることが最終目標である。それを妨げるものはすべてサタンの仕業であり、サタンはあの手この手で巧妙に妨害してくると教わる。時には父母の姿を借りて、時には警察、医者、弁護士に変装して、時には優しい言葉で、涙で、権力で…等々。だから私たちはサタンの誘惑や妨害に負けない強い信仰心を待たなければならないと教わる。その結果、例えばある週刊誌に統一教会は邪教であると書いてあったとしても、その内容の信ぴょう性や論理展開にかかわらずサタンが私たちの信仰を邪魔するために書いたと思うようになるのである。

私は初めて聖書を深く読み、解釈を聞き、原理思想に偏っていたかもしれないが自分なりに理解し、サタンのことも半分以上信じるようになっていた。ジャガイモを中心とした食事や、十分とは言えない睡眠時間、何時間も続くレクチャーや薄暗い部屋でのお祈り、精神がまるで宙に浮いたようにフワフワし、目に映るものがこれまでと全く違って見えた。合宿が終わって参加者は三々五々家路についた。私は一人で1時間くらい歩いて駅まで行き東京行きの切符を買った。その時駅の売店でビッグコミック最新号を見た。サタンの存在を半分信じていた私は漫画に手を出すのがすごく怖かったがゴルゴ13の誘惑には勝てず、結局買ってしまった。ついでにショートホープとライターも買って駅の待合室で一週間ぶりに一服しながらゴルゴ13を夢中で読んだ。ゴルゴ13はとても面白かったし、たばこはとてもおいしかった。フワフワした感覚はいつの間にか消え、いつもの自分に戻っていた。

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