2022-11-05 ライフ

サウンドスケープ—— 文化をのせる台南の音の風景

注目ポイント

大航海時代以来、台南はオランダ、鄭氏政権、清朝などの統治を経たために多くの歴史的建造物が残り、豊かな文化遺産を有する。また台南名物B級グルメも観光客が台南をリピートする要因になっている。 だが、見る、食べるだけでなく、台南には聞いて楽しむ魅力もある。2015年から台南のサウンドスケープ(音の風景)を採集してきた「目目文創(ViVoクリエイティブ・ワークショップ)」は、台南の特徴的な音を発掘し、文化や歴史を聴覚で探求することで観光の新たな次元を開こうとしている。

文・陳群芳 写真・莊坤儒 翻訳・松本 幸子

初夏、陽光あふれる台南にやってきた。「暑くないですか。扇風機をつけましょうか」最初の目的地「再発号肉粽」は開店したばかりで、店員が愛想よく尋ねてくれた。客が注文するより早く、おかみさんが「いつもと同じでチマキ二つ、タレなしね?」と聞いている。スープなら「熱いから気をつけてね」と言うのも忘れない。

清の時代に開業したという百年の老舗の肉チマキを味わっていると、聞こえてくるのは店の表にある小さな池の涼し気な水の音、そして店と客が交わす親し気な会話だ。

話し声や呼び声、肉や魚を切る音などが響く市場の音は、庶民の生活のひとこまである。

音で日常を探る

古くは「府城」と呼ばれた台南市中西区一帯をぶらつく。再発号肉粽と同様の老舗や建築物が至る所にある。「目目文創」のクリエイティブ・ディレクターである楊欽栄は、当初は台南の文化や生活、産業に魅せられ、台南を博士論文のテーマ「サウンドスケープ」の場所として選んだ。

目目文創は音を採集し、文化や歴史の発展も研究する。楊欽栄は、音を聞く経験を生活の場に据え、音の旅を作り上げた。

再発号肉粽から民権路を1分ほど歩くと玄天上帝を祀る北極殿に着く。30メートルほどのゆるやかな上り坂を指して楊欽栄は「さあ、登山に行きましょう」と冗談めかした。

確かに北極殿後殿は昔は「鷲嶺」と呼ばれた旧市街地で最も高い位置にあり、ここまで上ると全く別の音がある。町の喧騒は遠くなり、殿内に流れる伝統音楽や落ち着いた環境の中で、静かな気持ちになる。「鷲嶺」と書かれた嘉慶15年(1810年)の額の前に立ち、目を閉じて風の音に耳を澄ませると、傍らの池の水音も聞こえる。楊欽栄は、ここは山の頂上のようで、百年前にこの地を踏んだ先人のことが偲ばれると言う。

耳を通して台南の文化に触れれば、旅もより豊かなものとなる。

角を曲がると百年

同じく鷲嶺周辺には「鶯料理」と台湾首廟天壇がある。1912年開業の鶯料理は日本統治時代には料亭だった。再建を繰り返して日本式の庭園と建物を保存し、現在は台南の老舗「阿霞飯店」によって運営されている。楊欽栄は、建物内に流れる日本の演歌や、歩くと廊下がきしむ音などに、日本らしさがあると言う。すぐ近くの台湾首天壇は1855年の完成で玉皇大帝を祀る。近所では供え物を売る店の呼び声があり、廟内ではお祓いの音がする。

この二つの建物は異なる時代の遺物だが、これらが楊欽栄の言う台南の最も特別な点だろう。角を曲がれば大通りの喧騒は消え、いま通り過ぎたのは数百年の歴史のある建物かもしれないのだ。

楊欽栄は目目文創のチームを率い、台南の各地を歩いて文化を感じさせる音を探している。

音に文化を尋ねて

ときには、その場所の標識となる音(サウンドマーク)を示すと聞き手の共鳴を得やすい。台南に竹がまとまって植えられている廟は旧市街にある延平郡王祠と鄭成功祖廟だけだが、楊欽栄が鄭成功祖廟に人々を案内する際は、まず風に揺れる竹の音を聞いてもらう。それから、これが鄭成功夫人の愛した七弦竹であることを紹介する。敷地内にある日本式の手水舎からも鄭成功の母親が日本人であったことが偲ばれる。

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