2022-11-15 観光

片倉真理の台湾探見ーー司馬庫斯(スマングス)~タイヤル族の仙郷と神秘の森を訪ねて

© YAYA神木。司馬庫斯(スマングス)集落の守護神とも称される存在。集落からは5キロの道のり。

注目ポイント

台湾最後の秘境と称される司馬庫斯(スマングス)では、タイヤル族が平等主義のもと、伝統を守りながら共同生活を送っている。行楽客に人気の観光スポットは樹齢2000年を超える巨木群。また、この一帯は日本統治時代初期にタイヤル族と日本軍が戦火を交えた土地でもある。

「台湾最後の秘境」と言われる集落

台湾で最も奥まった土地。台湾北西部の山岳に位置する司馬庫斯(スマングス)は、原住民族(先住民)のタイヤル族の人々が暮らす仙郷だ。手つかずの自然を誇り、「台湾に残された最後の秘境」とも称される。行政区分では台湾北部の新竹県尖石郷玉峰村に位置している。

ここは1979年、台湾で最も遅くに電気が通じた場所としても知られる。1995年までは集落に至る自動車道路もなく、まさに辺境の地であった。長い間、社会から隔絶され、いわゆる「文明」から取り残されていたが、現在は知る人ぞ知る行楽地として知られている。

 

集落までの公共交通機関はなく、自家用車で向かうか、ツアーに参加することになる。台北から車で片道4時間。曲がりくねった山道を進み、いくつもの山を越えていく。ようやく現れる司馬庫斯の集落は海抜1500mの地点にあり、深い緑に包まれている。しっとりとした空気が肌を包み込み、別世界のようである。

司馬庫斯(スマングス)の集落は海抜1500メートルの地点にあり、夏場でも朝晩はそれなりの冷え込みとなる。奥に見えるのはシッキュス山(漢字では西丘斯山と表記)とその山並み。

司馬庫斯は台湾で唯一、「原始共同社会」の取り組みが実践されている。これはタイヤル族の伝統に従った自治で、集落の規範に従い、住民が共同生活を送るというもの。土地は共有財産とし、農作業から生活基盤の整備まで、さまざまな仕事をメンバーが分業している。行楽客が利用する宿やレストランも彼ら自身の運営によるもので、これが重要な収入源となっている。

興味深いのは、平等主義が貫かれていることで、年齢や地位などにこだわらず、給与は一人一律3万台湾元(2021年1月~)とされている。ただし、暮らしを支える負荷が大きい女性に対しては配慮がなされ、給与が1000元高く設定されている。

教会前の広場で催された歓迎の儀式。頭目(酋長)と前頭目の息子であるラフィー・イチェが訪問者の一人一人にお清めの水をかけ、仲間として迎え入れる。

母なる樹「YAYA」

司馬庫斯を訪れる行楽客が目指すのは、集落のはずれにある「巨木群」である。集落の東側に位置し、往復約10kmのハイキングコースが村人の手によって整備されている。のんびり歩いて往復5時間ほどなので、早朝に宿を出て、昼頃に戻ってくるコースが組まれることが多い。高低差が少なく、歩きやすいので、年配者や子どもでも気楽に散策が楽しめる。

 

道中の景色は変化が大きく、飽きることがない。見事な竹林があるかと思えば、数百本もの昭和桜や八重桜が植えられた桜並木もある。また、台湾固有種のカンムリチメドリやミミジロチメドリといった珍鳥を目にする機会も多く、山中には彼らのさえずりが響きわたる。

300年前に集落があった場所。疫病でたくさんの死者が出たために移転したが、竹林の中には今も祖先が眠る墓があるという。

コースにはいくつかの休憩所やベンチが設けられている。こういったところで適宜休息を取りながら、自分のペースで無理なく歩いていく。注目したいのは、谷に面して窓が透明なトイレ。思いのほか迫力に満ちた眺望が楽しめると評判だ。

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