注目ポイント
それはヒューストンの音楽祭、サウジアラビアのメッカ巡礼、まだ記憶に新しいインドネシアのサッカースタジアムなど、群衆が集まる場所で同じ悲劇が繰り返されてきた。韓国の首都ソウル・梨泰院(イテウォン)で29日深夜、10万人が押し寄せたハロウィンの熱狂が、悲鳴に一変。若者たちが次々と人波に押しつぶされ、少なくとも154人が圧死した。「群衆雪崩」と呼ばれるこの現象はどのように発生するのか、AP通信が解説した。
ここ3年近く、新型コロナウイルスの感染拡大により、ステイホームを強いられた多くの人たちが、将棋倒し事故のようなリスクに巻き込まれる機会はほとんどなかった。たとえ大勢の人が集まるイベントがあったとしても、ほとんど全ての場合、事故は起きていない。だが、大事故が起きた際は、いくつかの共通点があったとAP通信は指摘する。
将棋倒し事故では、どう人命は失われるのか?
映画に出てくる群集が必死に逃げるシーンでは、多くの人に踏まれることで死亡するかのように描いているが、現実は、死因のほとんどは窒息死だ。
群衆に押される力は、鋼鉄を曲げるほどのパワーがあるという。呼吸が不可能になり、人は立ったまま死に至り、倒れた人は、体の上で死亡した人たちの遺体の重さで呼吸不可能になり、死亡するというのだ。
「倒されて起き上がろうとすると(群衆に圧迫され)手足が一緒にねじれ、血液はすぐに脳に供給されなくなる」と英サフォーク大学観衆科学のG. キース・スティル客員教授は言う。
同教授は昨年11月、米テキサス州ヒューストンのアストロワールド・フェスティバルで観客10人が圧死した事故を受け、米ナショナル・パブリック・ラジオに、「意識を失うまでは30秒で、約6分で圧迫性または拘束性窒息に陥る。それが一般的に考えられる死因。押しつぶされたのではなく、窒息死だ」と解説した。
群衆に押し流されるとは、どういうものなのか?
開かないドアやフェンスに押し付けられる事故に巻き込まれた生存者の多くは、息ができず〝肉の雪崩〟のように、のしかかった人たちの下に深く押し込まれた状態から必至で逃げ出したと証言する。
1989年に英シェフィールドにあるヒルズボロ・サッカースタジアムで観客が群衆に押しつぶされた事故の報告書よると、「生存者は徐々に圧迫され、動くことができなくなり、頭が〝腕と肩の間でロックされて…パニックに陥り、呼吸困難になった〟と証言した」。この事故では約100人のリバプールファンが死亡した。「被害者は自分たちが死んでいくことを理解しながらも、どうすることもできなかったのだろう」と推測する。
何が事故の引き金になったのか?
2003年にシカゴのナイトクラブで起きた事故は、客同士のけんかを止めようと警備員が催涙スプレーを使ったことから、多くの客が逃げようとして出口付近で将棋倒しになり、21人が死亡した。今年10月、インドネシアではプロサッカーリーグの試合後に観客らがピッチに乱入。警察が発射した催涙ガスでパニックに陥った群衆が将棋倒しになり、131人が死亡した。1988年のネパールのサッカースタジアムでは、突然の豪雨で避難しようとした観客が、施錠された競技場の出口に向かって殺到し、93人が死亡した。