注目ポイント
「貢丸湯」は新北市の歴史ある建物やレジャーを紹介する雑誌である。そんな「貢丸湯」を発行する「見域工作室」は、清華大学(新竹市)の異なる学部の学生が一緒になって互いを刺激し合う「清華学院」(現厚徳書院)の仲間たちによって設立された。このプロジェクトの中心となって動いた呉君薇さん。設立までのストーリーや雑誌に込めた思いとは。。
呉さんは2014年末、物事を掘り起こすのが好きな仲間と共にフェイスブックページを立ち上げた。「新竹の廃墟や古い建物を撮影し、それに文章を付けて地域の歴史を紹介したところ、インターネット上で多くの共感を呼びました。最終的には古い建物群を救うことに成功したのです」

▽ 都市を知るプラットフォームの不足に気付く
呉さんたちはある興味深いことに気が付いた。多くの人が勉学や仕事のためにこの地にやって来て、その後も留まり続けているものの、“島内移民”の彼らはこの都市について何も知らないという点だ。「この都市の文化や歴史を伝える優良なプラットフォームが今まではなかったことに気付きました。ひいてはグルメやレジャーの情報さえもなかったのです。そのため、新竹は文化砂漠、美食砂漠だと思われがちでした。でも実は、情報を伝えるプラットフォームがなかっただけなのです」
当時、仲間たちには「何かをしなければ」という熱意がみなぎっていた。その時、代替役(軍務に服する代わりに政府機関などで勤務する制度)でアフリカに派遣される男性のニュースを目にし、「恵まれた子供はもっと社会貢献しなくてはならない」という思いが仲間の間で湧き上がった。「『可能ならば、学んだことでこの社会に手を差し伸べたい。学校は職業訓練所でも、次の人生のステップに進む踏み台でもない』と私と多くの仲間は考えるようになりました」

▽ 古建築の保護活動で「いかにして対話するか」考える
大衆と意思疎通を行うプラットフォームを作ろうと真に決意したのは、ある出来事がきっかけだった。
呉さんは新竹市内にある日本統治時代建設の監獄宿舎群の保存運動に参加した。抗議の意思を伝える演劇を上演するなど、多くの学生がこの運動に参加した結果、宿舎群の保存が決まった。「これは多くの人が集中して動いた結果であるとはっきり分かりました」と呉さんは話す。
ある時期、台湾各地では古民家が自然発火、あるいは破壊される出来事が相次いでいた。それらに対し、学生が働き掛けをするとあちこちから支援の手が差し伸べられた。「でもあの保存運動を通じて、なんでもかんでもあれほど大規模な動員に頼るわけにはいかないと気付きました。それは心身を共にすり減らす状態なのです」
宿舎群保存運動の後、呉さんらは「一般の人々と対話し、文化資産の保存というものを生活の中に溶け込ませないといけない」と考えるようになった。そして「見域」を立ち上げ、雑誌「貢丸湯」を創刊した。
