注目ポイント
雷に植物が反応し、葉の先端から放電する極わずかな電力が、空気の質を大幅に変化させ、気候変動対策にもなる可能性を秘めていることが最近の研究で明らかになった。オーストラリアの科学サイト「サイエンスアラート」が先週、その画期的な研究結果を報告した。
上空で稲妻が光ると、地上の植物が反応することがある。雷雨によって作られた電界の下、樹木の葉の先端から目に見える微弱な電気を放出する。この「コロナ」と呼ばれる放電は、帯電した物体の周りで光り、かすかな青い火花のように見えることもあるという。
ところが、この小さな放電が周囲の空気の質を変えているかも知れないというのだ。ただ、大気中への影響がプラスなのかマイナスかはまだ解明されていない。
米学術誌「地球物理学研究ジャーナル:大気(Journal of Geophysical Research: Atmospheres)」によると、米ペンシルバニア州立大学の研究チームは実験室で雷雨が発生させる電場を再現し、さまざまな条件のもとで8種類の植物が放出するコロナを分析した。
その結果、すべてのコロナが大量のラジカル(他の物質との反応性が高い不対電子を持つ原子、分子やイオン)を生成し、周囲の空気の質を大幅に変化させる可能性があることが示された。
同大の大気専門家で今回の研究論文の筆頭著者であるジーナ・ジェンキンス氏は、「この放出がどれほど広範囲に及ぶかについては、ほとんどわかっていないが、雷雨の下で樹木から発生したコロナが、周囲の空気に大きな影響を与える可能性があることが分かった」と述べた。
植物のコロナによって放出されるラジカルは、「ヒドロキシル(OH)」と「ヒドロペルオキシル(HO2)」の2種類で、どちらも中性であり、多くの異なる化学物質を酸化したり、電子を奪ったりして、それらを他の分子に変換することが知られている。今回の研究では、空気の質に大きな影響を与えるヒドロキシルラジカルの濃度に特に注目していた。
「ヒドロキシルラジカルは、多くの大気汚染物質の全ての大気酸化に関わっている」と、同大学の気象学者で研究論文の共著者であるウィリアム・ブルーン氏は説明。例えば、ヒドロキシルラジカルがメタンなどの温室効果ガスに反応する場合、有害な分子を大気から除去し、気候変動対策に役立つ可能性があると指摘した。
だが、同じラジカルが酸素に反応すると、成層圏では重要な役割を果たしているにもかかわらず、人間にとっては有毒なオゾンを生成する可能性もあるという。さらに、ラジカルは空気の質を損なうエアロゾル粒子を生成することもあるとブルーン氏は付け加えた。
ブルーン氏が率いる別の研究チームは先月、電柱や送電鉄塔などの金属によって生成されるコロナは、植物よりもわずかに高いレベルのヒドロキシルラジカルを生成することが分かったとする論文を発表。植物や人工物のコロナによって生成されるラジカルの量は共に、雷から直接生成されるものよりも大幅に少ないことも分かった。