2022-10-26 政治・国際

世界最古の星図の断片ついに発見される 伝説の古代ギリシャの「ヒッパルコス星表」

© Photo Credit: Shutterstock / 達志影像

注目ポイント

〝天文学の父〟とされる古代ギリシャの天文学者ヒッパルコス(紀元前190年頃~紀元前120年頃)が編纂(へんさん)し、2000年以上もの長きにわたり探し求められてきた世界最古の星空の地図「ヒッパルコス星表」の断片が、ついに発見されたと天文学ファンの間で大きな話題になっている。一体どうやって見つかったのか―。

「2000年以上前に作られた人類最古とされる星図の一部が発見された」とする論文が先週、英学術誌「ジャーナル・フォー・ザ・ヒストリー・オブ・アストロノミー」に掲載された。それによると、再利用された羊皮紙に書かれた中世キリスト教の写本のテキストの下から星図の写しが発見されたというのだ。

キリスト教の書物とは「クリマチ・レスクリプトゥス写本」と呼ばれるもので、星図の上に書かれていた。写本はエジプトのギリシャ正教会の聖カタリナ修道院で発見され、現在は米ワシントンの聖書博物館が所蔵している。

紀元前162~127年の間に編纂されたというヒッパルコスの星表は、固定された座標で天体の正確な位置を記録しようとする人類初の試みだった。だが、時と共に写しなども失われ、文献からのみ、その存在が知られていた。中にはその存在さえ疑う向きもあるほど伝説化していたという。

論文によると、中世の時代、羊皮紙が貴重だったことから、当時は一般的な慣行として、再利用できるようヒッパルコスの星表を削り取ったという。2012年、英ケンブリッジ大学のピーター・ウィリアムズ博士らが、この写本を調べていたところ、紀元前3~前2世紀の天文学者エラトステネスのものとみられるギリシャ語の一節を発見した。

そして2020年、研究者らは「マルチスペクトル・イメージング」と呼ばれる複数の波長帯の電磁波を記録する画像法を駆使して、異なる波長のカメラで羊皮紙の写真を撮り、削り取られたテキストの層を復元、解読することに成功。そこに記されていたのは、まさに幻の「ヒッパルコスの星表」の写しであることが判明した。

その画像化技術を通して、ヒッパルコスが記したかんむり座の長さと幅を度数で示した数値と、星座の最も遠い隅にある星の座標が明らかになったという。

今回の研究主任でパリのフランス国立科学研究センターのビクター・ギセンバーグ氏は、英科学誌「ネイチャー」に、「星の座標があることはすぐに分かった」とし、「新たな発見は、これまでで最も信頼できるものであり、ヒッパルコスの星表の再構築に大きな進歩をもたらす」と説明した。

ヒッパルコスは、現在につながる46星座を決定し、世界で最初の星のカタログを編纂したことに加えて、地球の歳差運動(地球が回転軸の傾きをほぼ一定に保ちながら方向を変えていく運動)を世界で初めて観測し、太陽と月の動きに関する正確な計算法を考案した最初の学者でもある。

羊皮紙に記されていた古代ギリシャ語が本物の「ヒッパルコスの星表」の写しだと判断できる決め手となったのは、こういうことだ。惑星が自転する時、歳差運動により星の見え方が75年ごとに約1度ずつずれる。それを利用して現代の星空から逆算すると、観測された年代を特定できることから、今回発見された座標の写しはヒッパルコスが生きた紀元前129年頃の星空と一致することが分かった。

これまで人類最古の星図とされたものは、2世紀に古代ローマの学者クラウディウス・プトレマイオス(83年頃~168年頃)が記した天文学の専門書「アルマゲスト」だった。だが、それより300年も古い「ヒッパルコスの星表」の方が正確だったことも分かった。

「アルマゲスト」は天動説と円運動に基づく天体の運行の理論を展開し、15世紀にコペルニクスが地動説を唱えるまで、1000年以上にわたり数理天文学の基礎として、中東および欧州で受け入れられた。

プトレマイオスは「アルマゲスト」の中で、ヒッパルコスを最も多く引用していることから、天動説を含む古代の天文学の体系を成立させたのはヒッパルコスであるという説があり、広く支持されているが、決定的な証拠がない。今回の発見を通して、それも見つかるかも知れない。


 


 

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