2022-10-22 政治・国際

台湾発の手術支援ロボット 世界屈指の技術力を駆使し、海外展開にらむ

© Brain Navi Biotechnology Co., Ltd.

注目ポイント

世界で開発競争が加速する手術支援ロボット。台湾発のバイオベンチャー、ブレインナビ・バイオテクノロジー社が開発した「ナオトラック(NaoTrac)」は、執刀医の技量に関係なく、安全かつ患者の負担が少ない低侵襲の手術を可能にし、手術時間も大幅に短縮できるという。同社は海外展開をにらみ、数年以内の日本での販売承認の獲得を視野に入れている。

外科手術の現場で執刀医を支援するロボットの開発競争が加速している。人の手による施術よりも精度が高く、患者への身体的な負担も軽減できることから近年では難易度の高い脳外科手術への導入も進む。手術支援ロボットの市場規模は2030年に227億ドル(約3兆3千億円)になるとも予測され、この分野で先行する米国を、中国、日本、韓国、台湾といったアジア勢が追う構図となっている。

8月12日、台湾東部・花蓮市にある花蓮慈済病院で行われた脳外科手術が世界の医療従事者向けにライブ配信された。参加者の注目を集めたのは「ナオトラック(NaoTrac)」。2015年に設立された台湾発のバイオベンチャー、ブレインナビ・バイオテクノロジー(Brain Navi Biotechnology)社が開発した手術支援ロボットだ。

ナオトラックは3次元のナビゲーションシステムを備え、脳内の特定した患部に狙いを定めると、そこをめがけてチューブなどの手術器具を正確にかつ短時間で差し込むことができる。脳は複雑で繊細な構造だが、1秒間に0・5ミリという非常にゆっくりとした速度で器具を入れていけるため、挿入の過程で血管を傷つけたり、無用な出血を引き起こしたりするリスクを軽減できる。

通常は硬い頭蓋骨に1円玉ほどの穴を開ける必要があるが、ナオトラックはロボットアームの先端についたレーザー照射で爪楊枝程度の穴を開けるだけで済むため、患者の身体的負担は圧倒的に少ない。手術は成功し、林欣榮(リン キンエイ)病院長は「ロボットの導入によって医師はより簡単に、より正確に自信を持って手術を行える」と答えた。

ブレインナビ社創業前から林院長に助言をもらってきたという陳階曉(ジェリー・チェン)最高経営責任者(CEO)は「ナオトラックを使えば、執刀医の技量に関係なく、安全かつ患者の負担が少ない低侵襲の手術が可能になる。手術時間も大幅に短縮できる」と説明する。

手術現場へのロボット導入は10年ほど前にさかのぼる。これまではマスタースレーブ型と呼ばれる、人の動きを遠隔操作で模倣する手術支援ロボットによる腹腔鏡手術などが主流だったが、近年は脊髄や膝関節、脳神経系など、より高度な手術へのロボットの活用にトレンドが移りつつあるという。

そのきっかけは、この分野でほぼ独壇場だった米インチュイティブサージカル社の手術支援ロボット「ダヴィンチ」の基本特許が2019年に期限切れを迎えたことだ。米国内外で多くの企業で手術支援ロボットの開発と商品化が進むようになった。

特許庁によると、手術支援ロボットに関連する特許出願は米国籍出願人が全体の52・5%と依然として高いものの、次いで中国籍15%、欧州籍11・7%、日本国籍8・9%、韓国6・2%とアジアも次第に勢いを増している。

手術支援ロボット特許出願人国籍・地域別集計データ
(経済産業省 特許庁 令和3年度「特許出願技術動向調査」の結果により)

ちなみに台湾は0・6%止まりだが、豪州やインド、ASEANといった国・地域よりも高く、「台湾のロボット技術力は世界屈指」(医療関係者)との評価もある。ブレインナビ社は海外展開をにらみ、数年以内の日本での販売承認の獲得を視野に入れる。

日本でも手術支援ロボットの開発は熱をおびつつあり、川崎重工業とシスメックスの共同出資で設立されたメディカロイド社が初の国産ロボット「ヒノトリ」を開発。大学発ベンチャーのリバーフィールド社は臓器をつかむ感触を遠隔操作しながら再現できる手術支援ロボットの開発を進める。

もっとも、医療分野では手術支援ロボットの導入でも薬事承認が必要で、どこまでを保険適用の対象範囲とするかといった議論も残る。ナオトラックによる脳外科手術のライブ配信に参加した東北大学病院脳神経外科の大沢伸一郎助教は「患者視点だけでなく、医療メーカーの正当な競争を活気づける意味でも厳しい承認基準を緩和してほしい」と話す。

 

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