注目ポイント
イラン国営テレビが先週末、ニュース放送中に同国の最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師(83)に抗議する内容の画面に突然切り替わるというハッカー攻撃を受けた。イランでは当局の暴力によるとされる若い女性の死をきっかけに、女性の人権をめぐるデモが全国に拡大。11日には石油業界の労働者による反政府デモが勃発したという情報もあり、イランは1979年のイスラム革命以来の転機となる可能性も出てきた。
女性たちによる激しい抗議デモのきっかけになったのは先月中旬、ヒジャブ(女性のスカーフ)で頭髪を覆うよう女性に義務づけた法律に違反したとして、マサ・アミニさん(22)が道徳警察に逮捕され、死亡したことだった。アミニさんの死因は、拘束中に頭部などを殴打されたためだとする情報が拡散され、首都テヘランを中心に反スカーフデモが広まっている。各地でのデモは多くの女性を含め、数百人単位に膨れ上がっている。
今回のハッキングはイスラム革命以来、前例のない規模のデモが巻き起こっている最中に起きた。
英BBCによると、イラン国営テレビのニュース番組がハッキングされたのは8日午後6時ごろ。画面には白い仮面が映し出され、続いてハメネイ師が炎に囲まれ、頭には銃の標的のような赤い丸が表示された。また、抗議活動で死亡した女性3人の画像が表示され、キャプションには「我々と共に立ち上がれ」「この国の若者の血がお前の両手からしたたり落ちている」などと書かれていた。
放送が中断されたのは数秒間で、すぐにスタジオ画面に切り替わったという。攻撃を仕掛けたグループは「アダラト・アリ」(アリの正義)と名乗っている。
イラン国内でほぼ全権を握るハメネイ師に対し、このような抗議が起きたことはこれまでなかった。ところがアミニさんの死後、多くの市民が公然と異議を唱えるようになったというのだ。
イラン国営テレビのハッキングで映し出された女性3人とはアミニさんと、アミニさんの死に抗議する反スカーフデモに参加し、死亡したとされる10代の少女2人。政権側はいずれも自殺で、デモとは無関係だと強調。ソーシャルメディアなどでは治安当局の関与を疑う声が広がり、反発が一層強まっている。
亡くなった少女の1人は、デモに出掛けたまま行方不明になっていたニカ・シャカラミさん(16)。先月21日、テヘランのビルの中庭で死亡しているのが発見された。検察は当初、付近で建設中のビルにシャカラミさんが入っていく姿が監視カメラに映っていたとした上で、何者かに突き落とされたとしていたが、その後〝自殺〟と断定した。
だが、シャカラミさんの母親はメディアに対し、「娘はデモに参加していて行方がわからなくなった。電話で話したとき治安当局について何か叫んでいて、逃げているようだった」などと証言。これを受けてSNS上などではシャカラミさんの死に治安当局が関わっていたとする新たな疑惑が広がり、政権側への反発がさらに強まっている。