注目ポイント
中国の新しい指導部の人事などを決める5年に1度の共産党大会が16日に行われる。習近平国家主席の異例となる3期目続投が確実視され、台湾へのより強硬な姿勢が予想される中、台湾では民兵として軍事訓練を希望する若者たちが急増している。英紙ガーディアンが伝えた。
まだ眠い日曜日の朝、50人の匿名の若い男女が、「黒熊学院」でのトレーニングのために、何の変哲もない台北の事務所に集まった。1日コースは台湾海峡をはさむ両岸の地政学と戦略、中国人民解放軍による侵略シナリオ、また偽情報の見分け方を学ぶ。その後、敵軍の制服の種類や止血帯の結び方などを教わる。
台湾の半導体製造大手UMC(聯華電子股份有限公司)の創業者ロバート・ツァオ(曹興誠)氏による10億台湾ドル(約45億円)の寄付を受け、市民戦士たちは訓練されている。同氏は先月、民兵のために「3年間で300万人」と、30万人の狙撃兵を訓練するための資金拠出を発表し、世界的な注目を集めた。そんな戦士の訓練は、2021年に発足したボランティアの民間訓練組織である黒熊学院と連携して行われる。
ガーディアン紙によると、この民間軍事訓練計画は、中国の侵略に備えることを求める台湾世論の高まりに応えたものだという。台湾が中国の一部であると主張し、中国政府は台湾を併合することを公言。中国当局は「平和的手段」を強調しているが、同紙は「過半数の台湾人が統一に反対しているため、それは武力行使による降伏を意味し、台湾はそうさせない決意を示している」としている。
ロシアの侵攻を受け、はるかに小国であるウクライナの自国防衛のための戦いは、台湾の人びとに刺激を与え、軍事セミナーなどに参加する人々が急増しているという。

アートコレクターとしても富を築いた75歳のツァオ氏は、一貫して現在の立場を主張していたわけではない。国民党の民族主義的軍事統治下の台湾で育ったツァオ氏は、共産主義に警戒するように教えられたが、「彼らが改革を始めた時は安心した」と当時の胸中を明かした。
同氏は中国と広範なビジネスを展開し、2007年には中国との統一を問う住民投票実施に向けて活動した。11年には自身の事業に捜査のメスが入ったことに激怒し、台湾の市民権を放棄。その後はシンガポールと香港に活動拠点を移した。
そんなツァオ氏は香港で勃発した民主化運動を目の当たりにした。武装した覆面集団が市民を無差別に襲った19年の香港・元朗区の衝撃事件により、ツァオ氏の中国政府へ信頼は消え、全て不信感に変わったのだという。この事件で中国の「逃亡犯条例」の改正案に対する大規模な抗議デモに参加した帰りの市民が被害に遭い、警察当局は暴挙が収まるまで動かなかったのだ。
ツァオ氏は、「事件は特に中国共産党との交渉や取り引きでは何も得られず、非常に危険であることを教えてくれた」とし、中国を「国家を装った犯罪シンジケート」だと表現。「言論の自由を縮小させ、ウイグル族の人権弁護士を逮捕し、香港の自由を取り締まり、今ではできる限りの方法で台湾を脅している」と語った。