2022-10-07 政治・国際

月イチ連載「山本一郎の#台湾の件」第7回:北朝鮮のミサイル発射実験から考える東アジアの安全保障環境のいま

注目ポイント

先日の北朝鮮による弾道ミサイル発射では、5年ぶりにJアラート(全国瞬時警報システム)が発令されて動揺が広がりました。山本一郎さんの月イチ連載、今回はシャレにならなくなってしまった東アジアの安全保障環境の現況を考えます。

ところが、諜報分野では特に、これらの米中対立の緊張関係による中国の妄動を抑える効果よりも、中国国内の社会不安や経済失調などでの失政を糊塗する目的で、限定的な対台湾や対ASEANの(それなりに大規模だが計画的で局地的な)軍事作戦を行う危険性は日増しに高まってきています。

そればかりか、アメリカによる曖昧戦略の具となっているのは台湾だけでなく、何を隠そう日本においても同じ状況に立たされています。つまり、日米安保条約に記された日米同盟は、仮に日本が周辺事態で戦争状態となっても、日本に駐留しているアメリカ軍はどこまで応戦してくれるのか、アメリカ軍本体はいつ駆けつけてくれるものなのか、核兵器を打たれたらアメリカはきちんと報復したり抑止をしてくれるものなのか、実は明文化されたものはなく、良く分からないというのが実情なのです。

したがって、中国の情報部門や外交に携わる人たちからは、日本はなぜアメリカが助けてくれると信じられるのか分からない、と素朴な疑問のテイで日米同盟の緩さを指摘してきて、日本側の疑心暗鬼を促すかのような発言を繰り返してきます。いわば離間工作を仕掛けてくることが多いわけでして、対日本ですらこうであるので、例えば対韓国や、対ASEANでのアメリカのプレステージの低下が進んでいる地域では通商の増大と共にアメリカよりも中国と手を結ぼうという雰囲気になるのは当然とも言えます。

 

来るべき安全保証のリスクに向けて

これらを経済面だけでなく、教条的に繋ぎとめているのは文字通り民主主義であり、専制的な政治体制に対する強い猜疑心と反感が根拠となっています。例えば、香港の民主勢力を文字通り警察力という名の武力でねじ伏せた元行政官・林鄭月娥(キャリー・ラム)さんの件では、住民による民主的な自治に対して強い制裁を与え、相対的に香港が中国本土の主要各都市に比べて特別な存在でなくなったと見るや一国二制度の建前さえもかなぐり捨てて同化政策へと走った経緯がありました。民主的でも独自でもなくなった香港が、繁栄の前提となっていた金融事業へ教育された香港人を送り込めなくなっていくと、必然的に国際的な金融センターの地位さえも喪失しかねません。台湾における半導体産業もまた、同様の危機感を持っているのではないかと思います。

同様に、台湾のように完全に民主主義が根付いて久しい国家に対して、仮に中国が本格的な武力行使を検討しうる段階に入るならば、新疆ウイグル自治区やチベット、あるいは内モンゴルや香港のように独自の政治体制は蹂躙されかねません。昨日の香港は明日の台湾であることを憂えて今日何をするかを昨今の政治情勢は課題として突き付けているようにすら思います。

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