注目ポイント
先日の北朝鮮による弾道ミサイル発射では、5年ぶりにJアラート(全国瞬時警報システム)が発令されて動揺が広がりました。山本一郎さんの月イチ連載、今回はシャレにならなくなってしまった東アジアの安全保障環境の現況を考えます。
同じ状況に立たされている台湾と日本
10月4日早朝7時ごろ、北朝鮮が日本領を飛び越える形で弾道ミサイルの発射実験を行ったという一報が入り、緊急事態室含め日本の官邸も緊張が走りました。
我が国の事態対処については総務省消防庁のサイトをご覧いただければと思うのですが、今シーズン35回目のミサイル(のようなもの)発射ということで、ネットではキャリアハイの本塁打数を金正恩が記録したとネタにされております。
シャレにならないのは、ロシアによるウクライナ侵略という具体的なイベントのお陰で世界経済が混乱と低迷を余儀なくされる状況のうちに、台日関係においては特にロシア、中国、北朝鮮という最悪の東アジアの安全保障環境となってしまったことです。ウクライナの正面で揉めている核兵器保有国はロシアだけですが、日本は決して有効な関係とは言えないロシア、中国、北朝鮮と3国もあり、正直何があってもおかしくないのに有効な対策は立てられないという微妙な状況にあります。
とりわけ中国に関しては、胡錦濤さんが国家主席だったころまでは「一つの中国原則」(One China principle)の名のもとに武力行使を前提とせず、むしろ2008年以降、台湾の総統が中国国民党の馬英九さんとなると、三通政策を通じて中国国家主席であった胡錦涛さんと経済的蜜月関係を確立していくことになります。これは、1997年に香港が、1999年にマカオが中国に返還されると、中国外縁の中でももっとも繁栄している台湾が注目されるのも当然のことで、結果的に、急成長する中国の経済力の伸びを取り込むことで、台湾経済もまたさらなる繁栄を享受することになったのは特筆するべきことです。
その後、習近平さんが国家主席となると、それまでの経済交流と台中同化政策のような穏やかな対外方針は一変し、むしろ従前の「一つの中国原則」に則って、台湾は中国に帰属するべき対象として武力行使も辞さず脅すのであるというアプローチに転換してしまいます。
むつかしいのは、本稿でも重ねて指摘しておりますアメリカによる対中政策が、概ねにおいて台湾を含む曖昧戦略の具になっているところです。アメリカからすれば、中国が台湾に手出しをすればアメリカが介入してくると信じさせる、同様に、台湾にとってはあまり独立だ自立だと中国を刺激して中国が攻めてきたらアメリカは守ってくれないかもしれないと疑わせるという両面で成立してきた、典型的な緩衝国に対する態度であることは言うまでもありません。アメリカがいることで中国は対台湾への武力行使を決断できず、台湾も中国を挑発しなければリスクは現出しないと信じさせる曖昧さこそ、米中対立における台湾のデリケートな位置を維持できる方策となるわけですよ。