2022-10-05 政治・国際

ウクライナ4州のロシア編入は新たな段階 プーチン氏の核攻撃は「2~3歩近づいた」

© Photo Credit: AP / 達志影像

注目ポイント

ロシアのプーチン大統領による、ウクライナ東部と南部の4州の編入宣言は、7か月にわたる侵攻の新たな危険な段階の始まりを示していると米紙ワシントン・ポストが報じた。西側の当局者や専門家は、ロシアが1945年の広島・長崎以来となる核兵器の使用にエスカレートする可能性を懸念しているというのだ。そんな中、英紙ロンドン・タイムズは3日、ロシアが核実験の準備を始めたと伝えた。

プーチン大統領はかねてから、ウクライナにおけるロシアの目標が妨害され続ける場合、核兵器の使用に踏み切ることを示唆。先週のウクライナ4州編入宣言の際に行った演説では、「わが国の領土保全が脅かされている」と主張した。それがプーチン氏の核兵器使用を正当化する理由の一つだとすれば、その危機は非現実的なものではないことになる。

演説の中でプーチン氏は、米国は広島と長崎への原爆投下により核兵器使用の「先例」を作ったと強調。過去には米国によるイラク侵攻も、ロシアのウクライナ侵攻の「先例」だとしていることから、「米国がやったことは、ロシアもやる」というメッセージだと同紙は示唆した。

そんなロシアが、「ウクライナ国境近くで核実験の準備を始めた」との情報がNATO(北大西洋条約機構)の同盟国の間で共有されたとロンドン・タイムズ紙が報道。核兵器の使用を担当する部隊に関連する列車が移動したとも伝えた。

この報道に、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「誇張された西側の論調」に巻き込まれることはしないとして、否定した。

多数の欧米当局者は、プーチン氏が現実的に核攻撃に踏み切る可能性は低いとし、核の脅しは「西側はウクライナに対し、これまで以上洗練された武器の支援をするなというメッセージ」だと推測。その間、〝部分動員〟という名の徴兵により兵員30万人を動員することで前線を立て直し、戦況を逆転するか、少なくとも撤退は避けるという思惑があるとみている。

だが逆に、核の脅威をちらつかせたことで、西側はウクライナへの武器供与を続けるという決意を強めただけという結果になった。実際、ウクライナ軍はロシア占領地域への反攻を続け、先週末は、ロシアが編入を宣言した4州の一つである東部ドネツク州の要衝リマン市を奪還。さらに、ウクライナ軍は編入された南部ヘルソン州でもロシア軍の防衛線を突破し、5つの村を取り戻し、その勢いは止まらない。

ウクライナ軍の猛攻に撤退したロシア軍の崩壊に対し、〝プーチンの忠犬〟と揶揄(やゆ)されるチェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフ首長や、ロシアの一部軍事ブロガーらは、軍部の不甲斐なさを批判。ウクライナへの核攻撃を含む強硬策を求めている。

カディロフ氏は、「国境地域での戒厳令と小型の核兵器使用まで、より抜本的な措置を講じる必要がある」とロシアのメッセージアプリ「テレグラム」で主張した。

ワシントン・ポスト紙によると、親ロシア派やロシア軍により占領された地域が一方的にロシアに編入された今、1945年の原爆投下以来、核兵器使用に向けた一連の流れが現実味を帯びているという。

英シンクタンク「国際戦略研究所」の上級フェロー、フランツ・ステファン・ガディ氏は、「起きる確率は低いが、冷戦が終結した1980年代以来、核戦争の危機が最も深刻な状況だ」と分析。その上で、「非常に危険な状況で、西側のリーダーは真剣に受け止める必要がある」と訴えた。

その警告通り、欧米の当局者は脅威を真剣に受け止めていることは事実だ。

米ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官は2日、ロシアが核攻撃すれば「壊滅的な結果」が生じるだろうと発言。それが何であるかは特定しなかったが、「非常にハイレベル」のロシア当局者には「壊滅的な結果」について非公開の場で具体的に忠告したと明かした。

サリバン氏は続けて、「もし暗黒の道を選んだら、彼らは自分たちがどうなるかを理解している」と述べた。

EU(欧州連合)のある担当者はワシントン・ポスト紙に対し、繊細な事案であることから匿名を条件にこう語った。「プーチンが何をしでかすか誰も分からない、誰も」とし、「彼は完全に追い詰められている。クレージーだ。しかも、彼には出口が無い。もし、あるとすれば、完全な勝利か、完全な敗北かのどちらか。だから我々は後者になるよう働きかけている。ウクライナが勝つことで最悪のシナリオにならないよう働きかけているのだ」と語った。

担当者はさらに、目標はウクライナの領土からロシア軍を追い払うために軍事支援をする一方、ロシアが停戦に応じ、撤退するよう政治的圧力をかけていると強調。「ウクライナ侵攻は間違いだった」という考えをロシア国内外で拡散し、「徐々にその効果が出始めている」と述べた。

2月のウクライナ侵攻開始当初はロシア寄りだったインドだが、プーチン氏が核攻撃に言及したことで警戒心を強めた。また、表向きにはロシアの最も重要な盟友とされる中国でさえ、プーチン氏の継続的なエスカレーションには不安感を示している。

ただ、ウクライナ4州の編入や新たな兵員30万人動員などを見る限り、西側の戦略がプーチン氏に対し、「ロシアは勝てない」と納得させるほど十分に機能していないことも事実だと米超党派のシンクタンク「カーネギー国際平和基金」の上級フェロー、アレクサンダー・ガブエフ氏は述べた。

ガブエフ氏は、戦況が悪化するとプーチン氏は危機感を煽ることを躊躇(ちゅうちょ)しない。一方、西側も引かないだろうし、現在の状況は非常に困難だ」とし、「ロシアは目標を達成できないまま、禁断の手段に打って出るまで後2~3歩近づいた」と重大な懸念を示した。


 


 



 

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