注目ポイント
ロシアのプーチン大統領による、ウクライナ東部と南部の4州の編入宣言は、7か月にわたる侵攻の新たな危険な段階の始まりを示していると米紙ワシントン・ポストが報じた。西側の当局者や専門家は、ロシアが1945年の広島・長崎以来となる核兵器の使用にエスカレートする可能性を懸念しているというのだ。そんな中、英紙ロンドン・タイムズは3日、ロシアが核実験の準備を始めたと伝えた。
プーチン大統領はかねてから、ウクライナにおけるロシアの目標が妨害され続ける場合、核兵器の使用に踏み切ることを示唆。先週のウクライナ4州編入宣言の際に行った演説では、「わが国の領土保全が脅かされている」と主張した。それがプーチン氏の核兵器使用を正当化する理由の一つだとすれば、その危機は非現実的なものではないことになる。
演説の中でプーチン氏は、米国は広島と長崎への原爆投下により核兵器使用の「先例」を作ったと強調。過去には米国によるイラク侵攻も、ロシアのウクライナ侵攻の「先例」だとしていることから、「米国がやったことは、ロシアもやる」というメッセージだと同紙は示唆した。
そんなロシアが、「ウクライナ国境近くで核実験の準備を始めた」との情報がNATO(北大西洋条約機構)の同盟国の間で共有されたとロンドン・タイムズ紙が報道。核兵器の使用を担当する部隊に関連する列車が移動したとも伝えた。
この報道に、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「誇張された西側の論調」に巻き込まれることはしないとして、否定した。
多数の欧米当局者は、プーチン氏が現実的に核攻撃に踏み切る可能性は低いとし、核の脅しは「西側はウクライナに対し、これまで以上洗練された武器の支援をするなというメッセージ」だと推測。その間、〝部分動員〟という名の徴兵により兵員30万人を動員することで前線を立て直し、戦況を逆転するか、少なくとも撤退は避けるという思惑があるとみている。
だが逆に、核の脅威をちらつかせたことで、西側はウクライナへの武器供与を続けるという決意を強めただけという結果になった。実際、ウクライナ軍はロシア占領地域への反攻を続け、先週末は、ロシアが編入を宣言した4州の一つである東部ドネツク州の要衝リマン市を奪還。さらに、ウクライナ軍は編入された南部ヘルソン州でもロシア軍の防衛線を突破し、5つの村を取り戻し、その勢いは止まらない。
ウクライナ軍の猛攻に撤退したロシア軍の崩壊に対し、〝プーチンの忠犬〟と揶揄(やゆ)されるチェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフ首長や、ロシアの一部軍事ブロガーらは、軍部の不甲斐なさを批判。ウクライナへの核攻撃を含む強硬策を求めている。
カディロフ氏は、「国境地域での戒厳令と小型の核兵器使用まで、より抜本的な措置を講じる必要がある」とロシアのメッセージアプリ「テレグラム」で主張した。
ワシントン・ポスト紙によると、親ロシア派やロシア軍により占領された地域が一方的にロシアに編入された今、1945年の原爆投下以来、核兵器使用に向けた一連の流れが現実味を帯びているという。