2022-10-06 政治・国際

子ども食堂にホームレスへの食糧支援。ロックとアメリカが育んだ他者への共感

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注目ポイント

東京都内で子ども食堂とホームレスへの食糧支援を無償で行っているニッキー・マツモトさん。15年間のアメリカ生活から帰国後、音楽活動と並行して慈善活動にも精力的に取り組み続けるロックミュージシャンは、自らを優先し、異質な他者に不寛容な日本社会の歪さを語る。

慈善の文化に目が向いたアメリカ生活

お手製のおにぎりに缶詰やペットボトルのお茶を詰め込んだ紙袋を、深夜の駅に寝泊まりするホームレス一人ひとりのかたわらへそっと届ける——ロックミュージシャンであるニッキー・マツモトさんのルーティーンだ。

ホームレスへの食糧支援の様子(マツモトさんのYouTubeチャンネルより)

隔週の日曜日、マツモトさんは慌ただしい1日を過ごす。早朝から数名のボランティアと買い出しや仕込み、調理を始め、昼になると自身がオーナーを務める東京・飯田橋のスポーツバー「Wild Pitch」で地域の子どもたちを対象にした子ども食堂を開く。そして日付が変わる深夜には終電が終わった近隣の駅へワゴン車を走らせ、ホームレスに食糧を届けるという活動を2020年から続けている。

社会貢献と音楽のつながりは歴史的に深い。マツモトさんも多くの先人から影響を受けたが、音楽と慈善活動という二足のわらじを履くことになったのは、15年間にわたったアメリカ生活がきっかけだ。

1963年に千葉県で生まれ、アメリカのベースボールやロックミュージックに夢中な少年時代を過ごしたマツモトさんは、高校卒業後、18歳でミュージシャンを志して単身渡米。ロサンゼルスのスラム街で極貧生活を送りながらもバンドを結成し、ライブ活動を続ける日々で目の当たりにしたのが、市民レベルで根付いている慈善活動や寄付の文化だった。

「33歳で日本に帰ってきてからは、アムネスティ・インターナショナルに参加したり、難民の権利を剥奪されたソマリア人や冤罪で逮捕されたナイジェリア人の支援を個人で行っていました。活動により力を入れるようになった一番大きな出来事は、東日本大震災です。地震発生から4日後、支援物資を届けに被災地へ向かいました。その後も東北へ何度も足を運ぶ中、本当に頑張れば人は人の役に立てるということを実感しました」

 

尊重されるべき最低限の人権

自分のエゴを振りかざすのではなく、自分と同じように人を大切にする気持ちを持てば、世界は変わる——人のために自分を犠牲にする理念を世界に広めたいと、2018年にはボランティア団体「他人ファーストの会」を結成。チャリティコンサートを軸に国内外で活動の幅を広げようとした矢先に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きた。

「人が集まるようなイベントや海外渡航も自粛。東京オリンピックに合わせてオープンしたスポーツバーも休業せざるを得なくなって、それならば地域貢献に力を入れようとバーのキッチンを使って始めたのが、子ども食堂とホームレスへの食糧支援です」

実は、マツモトさん自身もホームレス経験がある。日本に帰国後、頼れる家族も友人もおらず、40歳を目前に路上生活を余儀なくされた。約2年後、困難の中で立ち上げたITビジネスが幸運にも軌道に乗って抜け出せたものの、「ホームレス状態は誰にとっても他人事ではない」と強調する。

「10代の頃に初めて聴いたジョン・レノンの『Happy Xmas (War Is Over)』の“The world is so wrong”という一節が、今でも頭に残っています。過ちを犯し続ける世界——大国間のパワーゲームや、富が一極集中し貧困層が拡大を続ける中で、私たちは互いにもっと支え合わなければならない。でも、今の日本はホームレス=仕事をしない怠惰な人だと見做して、関わろうとしませんよね。『食べること』と『寝る場所があること』、この二つは誰であっても尊重されるべき人権なのに、それを理解できていない日本人が多い」

敬愛するジョン・レノンの没後25周年時に発表した、マツモトさんのバンド・Rock of Asiaの「Vision Led On」(マツモトさんのYouTubeチャンネルより)

マツモトさんは2020年11月、東京・渋谷で路上生活をしていた高齢女性が殺害された事件を引き合いに出す。

「アメリカだったらバス停でもコインランドリーでも、誰かと顔を合わせれば自然と会話が始まります。さまざまな問題を抱えた国ではあるけれど、あれほど無残な事件はアメリカ、ヨーロッパでも起きないでしょう。バス停のベンチで寝ている人がいたら、どうして『何か困っていることはないか?』とひと言でも声をかけられないのか。そういう意味では、日本人は欧米から見習うべきことがあるのではないでしょうか」

「行き過ぎたキャピタリズムによって人間性が失われている」。心を開き、支え合うことを伝えられるような教育が必要だとマツモトさんは訴えた。

 


 

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