注目ポイント
東京都中央区日本橋馬喰町のとあるビル。小さな看板が出ていて、その前の扉を開けると、こぢんまりとしているが、落ち着いた雰囲気の隠れ家的スペースが現れる。そこが、知る人ぞ知る昆虫食・ジビエレストラン「アントシカダ」だ。
篠原さんは「一般の人たちに興味を持ってもらうには、面白くて、おいしい、そうでないとゲテモノ扱いされてしまう」という。ただ、昔は41の都道府県で55種類の虫が食べられてきたという記録があると篠原さん。「自然が豊かで、それだけ虫が身近にいるということ」で、そういう国民性を考えるとやりやすい面もあるのでは、という。
「アントシカダ」では多くの昆虫食、ジビエ料理を味わえる。まずは「コオロギラーメン」。出汁(だし)を、穀物で育てた穏やかな煮干しのような味のフタホシコオロギと魚粉で育てたパンチのあるスルメのような味わいのヨーロッパコオロギの2種類からとり、味付けはコオロギと米こうじと塩を発酵させて作るコオロギしょうゆ。麺にもコオロギが練り込まれている。コオロギはビールやスナックなどにも使われ、汎用性に富む。
タガメジン
タガメも興味深い食材。オスがメスを誘う時に出すフェロモンが洋梨のようなフルーティな香りで、それを活かしたジントニックやハイボールが味わえる。タイなどでもタガメは食されるが、香りが高いオスは値段が高く、メスはその形を活かした炒め物など「見た目勝負」の観光客用料理に使われている、というようなうんちくも篠原さんから聞ける。
蚕沙茶
蚕を使った「蚕沙(さんしゃ)どぶろく」、「蚕沙茶」といったメニューもある。古くは漢方薬とされてきた蚕のふんを使っている。要するに蚕が食べた桑の葉の未消化物である。
最初はギョッとしてしまうかもしれないアルコールには、ゴキブリの卵を使い、大学とのコラボで出来た「ゴキブリ卵鞘(らんしょう)酒」や、桜につく毛虫のふん、桜の樹脂を使った桜の香りの苦めのリキュール「桜毛虫アマーロトニック」もある。
また、アカマツ、ヒノキ、カラマツといった木を蒸留して作るフォレストソーダ(木のソーダ)も美味だ。一切香料を使っていないが、爽やかな森の香りが漂う「飲む森林飲料」。
コオロギビール
こういった昆虫食、飲料が、「アントシカダ」のカウンターの中にいる篠原さんをはじめとするスタッフの愛情たっぷりの解説とともに味わえるのだ。時には原材料の虫なども登場、スマホ端末を使って写真を見せながらの説明なども。
篠原さんはいう「虫に焦点を当てていますが、それだけがすべてではありません」。実際のところ、イノシシ肉などのジビエ料理、コイといった、昔ながらの食材ながら最近はあまり口にすることが少なくなったものなども提供されている。
「アントシカダ」という店名は、「アリ(ant)」と「セミ(cicada)」を合体させたもので、篠原さんのアイデア。「地球の生きものの豊かなこと。虫は虫、イノシシはイノシシ。それぞれに良さがある。それをリスペクトする。地球料理なのです」。