2022-10-18 政治・国際

台湾人戦争犠牲者はどのように追悼されるか

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注目ポイント

太平洋戦争で死亡・負傷した数万人の台湾人戦争犠牲者を慰霊・記念する公的施設が、台湾国内には存在しない。日本・台湾における犠牲者の慰霊の実際を見ながら、その理由を考察する。

「台湾人戦争犠牲者」とは

戦時下の台湾では、多くの犠牲者が出た。それはアメリカの空襲と日本の軍事動員によるものだった。帝国日本による動員によって、数万人の台湾人が帝国軍人または軍属として、東南アジアや太平洋地域で命を落とし、または行方不明になった。

そして台湾本島では、アメリカ軍を主とした連合国軍による空襲が激しく行われて、多くの死傷者が出た。以下では、戦争動員と空襲で死亡し、または負傷した人々を「台湾人戦争犠牲者」と呼ぶこととする。

大まかに言えば、現在の台湾政府、正確に言えば中華民国政府(蔡英文政権によれば「中華民国台湾政府」)は、アジア・太平洋戦争で死亡し、負傷した人々の慰霊・記念を行っていない。それはなぜだろうか。

台湾政府による慰霊が行われていない理由を検討する前に、まずは現存する台湾人戦争犠牲者慰霊施設について概観しよう。


 

日本の台湾人日本兵慰霊施設

興味深いのは、一部の慰霊施設が日本にあることだ。例えば東京・九段下の靖国神社では、戦場で亡くなった台湾人を「大日本帝国軍人」として祀っている。

また、沖縄県糸満市摩文仁にある県営平和祈念公園の園内には、「台湾之塔」が立っている。日台の民間人の寄付で2016年に建立されたもので、蔡英文総統の落款があり、碑文には「時代が変わろうと、人が自らの命を犠牲にして他者を救わんとした行為は、民族や国家の如何を問わず、人道の範として賞され語り続かれなければなりません」とある。「先の大戦に台湾から参戦し散華した軍人軍属などの御霊を慰霊・顕彰」するために、この台湾之塔を建立したのである。

戦場で戦った台湾人兵士が果たして「自らを犠牲にして他人を救わんとした」ものかはさておき、沖縄県、あるいは国民国家日本の公的施設で台湾人戦争犠牲者が記念されていることは、「台湾之塔」の特徴といえよう。

沖縄県営平和祈念公園 台湾之塔

 

台湾での台湾人日本兵慰霊施設

次に、台湾国内における民間による慰霊の実際を見てみよう。民間による戦時下の犠牲者の慰霊の多くは、台湾の民間信仰の場、すなわち「廟」で行われる。

例えば、新竹北埔の濟化宮は、1980年代に靖国神社との交渉で、靖国神社で祀られている台湾人日本兵の魂を台湾に迎えた。濟化宮は今になっても、遺族にとって親しい場であり続ける。また、台中の宝覚禅寺では、一部の台湾人日本兵の遺骨が祀られている。そこには元総統の李登輝による慰霊・記念碑も建てられている。中華民国国史館の館長だった張炎憲も在職中に当寺に参拝した。

宝覚禅寺の例のように、台湾(中華民国)政府の政治家や官僚は台湾人戦争犠牲者の慰霊を完全に無視したわけではなかったが、慰霊自体を民間の宗教施設に任せているのが現状である。

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