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イタリアでムッソリーニ以来となる第二次大戦後、最も右傾化した政権が発足する―。上下両院を改選するイタリアの総選挙の投票が25日行われ、ジョルジャ・メローニ党首(45)率いる極右派政党「イタリアの同胞」を中心とした「中道右派連合」が勝利し、同国初の女性首相が誕生する。だが、「連合」の中にはロシアへの経済制裁見直しを主張する政党もあり、西側の結束の乱れが懸念される。
米誌「ニューズウィーク」は、メローニ氏を「欧州で最も危険な女」と表現。今回の総選挙でネオファシストに起源を持つ新興極右派政党「イタリアの同胞」などの右派連合は上下両院で勝利を果たし、同氏の首相就任が確実となったからだ。
選挙期間中、メローニ氏は集会で、「麻薬の売人、泥棒、レイプ犯、マフィア」が最大の敵だとして治安の強化を約束。また、絶対的権限を委ねる大統領制への移行を訴えたが、極右色を払拭しての選挙運動を展開した。
25日の総選挙で「イタリアの同胞」が第1党になることが確実となったメローニ氏は、26日未明にローマの党本部で記者会見し、同党が率いる「中道右派政権の樹立を国民が支持した」と述べ、勝利宣言した。メローニ氏は「次期内閣の組閣を任されれば、国をまとめる努力をする」とし、穏健なトーンを打ち出した。
そんなメローニ氏について、米紙ワシントン・ポストは「イタリアの次期首相は突如として現れた」とし、「イタリアの男性優位の政界では、何年も事実上無視され続けたメローニ氏は、ローマなまりの強い未婚の母親であり、常にカジュアルでぶっきらぼうで、手を空に向けて熱弁し、いわゆる〝社会正義〟やキャンセルカルチャーをぶった切る」と紹介した。
いずれにせよ、同紙はメローニ氏の台頭が驚くべきものだと指摘する。
同紙によると現在、有事の欧州にあって、同氏はナショナリストが陥りがちな失敗を避けてきた。選挙期間中には、NATO(北大西洋条約機構)の強力な支持者であることをアピールし、ロシアのプーチン大統領に親近感を示さず、イタリアの安定を目指し、NATOを混乱させないことを約束した。
さらに、イタリアが権威主義的な方向に向かうこともないと明言。EU(欧州連合)と連携する姿勢を強調し、ロシアへの経済制裁でも「欧米諸国と歩調を合わせる」と穏健路線をアピールして支持を広げた。
だが数年前までメローニ氏は、不法移民やイスラム化を阻止し、左派政治家によりドイツやフランスに追随する政治から祖国を守ると公言していた。また、EUに懐疑的な立場を示し、連合を組む右派政党はロシア制裁の見直しを訴えている。さらに、選挙終盤には「イタリアも国益を最優先する」とも発言している。
そのため、ワシントン・ポスト紙はイタリア社会の風潮が今後、確実に変わると推測する。
メローニ氏はLGBT活動家やグローバリズムを推進する人たちをやり玉にあげ、移民犯罪にも言及している。それに対し、キリスト教の伝統的な価値観や男女の役割など、「我々が支持するものは全て攻撃を受けている」と主張する。例えば、同性愛者の養子縁組への反対など、メローニ氏の政治スタンスの中には、有権者に支持されないものもあるが、本人は人気よりも政治姿勢を貫くことを重視していると訴える。