2022-09-23 ライフ

新鋭漫画家・高妍を形作った日台文化と、台湾漫画界の展望

注目ポイント

イラストレーターとしても活躍する漫画家・高妍(ガオイェン)さん。台湾と日本で作品を発表し、最近は村上春樹さんの著書『猫を棄てる 父親について語るとき』の装・挿画や、『月刊コミックビーム』の連載をまとめた単行本『緑の歌 -収集群風-』で高い関心が寄せられている。沖縄の美術大学に留学経験もあり、日本文化への愛も深い彼女へのインタビュー。

商業デビュー作『緑の歌 -収集群風-』(KADOKAWA)で人気を経た台湾出身の漫画家・高妍さん。「10代の時の自身の日記をもとに制作した」という本作は、村上春樹や細野晴臣をはじめとする様々なカルチャーが詰め込まれた世界観が、繊細なタッチで描かれている。新進気鋭の台湾漫画家として注目を浴びる高妍さんに、自身を形作ったカルチャーや台湾漫画にかける想いまで幅広く話を聞いた。

いまの自分だからこそ描けた『緑の歌』

忘れられない高校時代のある夏の日の思い出を抱えたまま、地元を離れて台北で生きる女子大生・緑。創作活動や恋に悩みながら前に進む一人の女性の姿を新鮮なタッチで描き、大きな話題を呼んだ『緑の歌』。台湾の熱気と共に、ひりひりとした青春時代特有の空気感を余すところなく切り取った本作は、作者である台湾出身の漫画家・高妍さん自身の過去の出来事や経験に基づいて描かれた作品だ。

当時の自分の心境を思い返すと、「あの頃はとても未熟だった」と恥ずかしさを感じることもあるという。「でも、この作品には、いつかは忘れてしまうかもしれない大切なことを刻み込みました。5年後の私がこの作品を描いたら、きっともっとうまく描けたのだと思います。でも、これと同じ作品はきっといまの私じゃないと描けなかったはず。だからこそ、大切な作品なのです」と高妍さんは続ける。

高妍「緑の歌 - 収集群風 -」より

細野晴臣や村上春樹などの音楽や小説をはじめ、日本発のカルチャーへの惜しみない愛や憧憬が、至る所から感じられるのも本作の特徴だ。最初に触れた日本カルチャーは、アニメ『鉄腕アトム』だったという。

「当時の私は『女の子らしいもの』が苦手で、女の子といえばピンクやお姫様が好きという固定観念や、『女の子だからこれをしなさい』と言われるのも苦手でした。そんなときに出会った『鉄腕アトム』のアトムは、私の憧れの存在でした」

『緑の歌』の世界観を作ったカルチャーとは?

母や叔母たちが絵を描くのが好きだった影響で、幼少期から絵を描くことが好きだった。小学生6年生の時点で、すでにコンピュータとマウスを使って、デジタルでも絵を描き始める。絵に深い興味を示す中学生だった彼女へ、母からの誕生日プレゼントはペンタブ。それ以降、SNSのイラストの投稿や、絵が好きな人たちとの交流が始まった。

中学卒業後は、美術科のある高校に進学し、ますます大好きなスケッチや油絵の世界へと浸っていく。「このときに、様々なディープなサブカルチャーを愛する仲間たちに恵まれたことが、人生で大きな転機になった」と彼女は語る。

⎯  続きを読む  ⎯

あわせて読みたい