2022-09-21 政治・国際

あと一週間に迫った安倍元首相の国葬―テレサテンも国葬だった―

© Photo Credit: Reuters /達志影像

注目ポイント

9月27日に安倍元首相の国葬が武道館で行われるが、法的根拠はあるのか、有意義な弔問外交ができるのか、これは弔意の強制ではないかなど、世論は未だに毀誉褒貶が喧しい。イギリスではエリザベス女王の国葬が厳かに行われたばかりだが、台湾をはじめ、外国の国葬はどうなっているのか。

≪台湾の国葬≫

筆者が住んでいる台湾にも国葬はある。中華民国の国葬法に「国葬後の遺体は首都(南京)の墓地に埋葬する」と言う一節がある。しかし1949年以降中華民国は台湾のみを実効支配するようになった結果、実質の首都は台北(臨時首都)となり、南京に埋葬することができなくなった。したがってそれ以降は「国葬」ではなく、「準国葬」と呼ばれている。台湾で「準国葬」されたのはほとんどが大統領や政治家で、初代~第5代まで大統領を務めた蒋介石、その息子の蒋経国、日本人にも馴染みのある李登輝がいる。その他、哲学者として有名な胡適、兵士の殺伐とした心を歌で慰め続けた歌姫テレサテンも準国葬であった。蒋介石と蒋経国の遺体は防腐処理をされ、台北市から南西へ車で約1時間、風光明媚な桃園市大渓にある「慈湖陵寝」に眠っている。ここは観光地となっていて、衛兵が1時間ごとに交代の儀式を行う。

 

≪諸外国の国葬≫

海外でも国葬されるのは王室、大統領、首相などである。それに加えて功労のあった者も国葬される。政治家以外で国葬された人を見ると、その国の歴史や国民感情が少しわかるような気がする。外国の国葬で特記すべき人を一部記しておく。

アメリカ:コーンパイプでおなじみのマッカーサー

イギリス:詩人シドニー、科学者ニュートン

フランス:レミゼラブルのユーゴー、白鳥のサンサーンス

インド:マザーテレサ

ジャマイカ:レゲエ歌手ボブ・マーリー

ブラジル:カーレーサーのセナ

アルゼンチン:神の手マラドーナ

 

≪安倍氏の国葬、賛否両論≫

戦後、天皇・皇后以外で国葬が行われたのは55年前の吉田茂元首相だけである。1967年10月20日に死去し、11日後に国葬が執り行われた。安倍氏の場合国葬の日取りは亡くなってから3か月近くも過ぎた9月27日である。現役政治家の暗殺というショックと悲しみは徐々に薄れ、「国葬」に関する是非がメディアを騒がせるようになった。因みにエリザベス女王の国葬も吉田茂と同じ死去から11日後である

国葬までの日数がこんなに長く空く形となったが、もともと安倍政治を快く思っていなかった人や野党から国葬反対の声が上がり、メディアも国民アンケートを通して反対意見を後押しするのに十分な時間となってしまった。主な反対理由はモリカケ桜問題がまだ解明していないこと、旧統一教会との関係、16億円以上の税金が使われること、アベノミクス・改憲・安全保障法制などの政治的評価がまだ定まっていないこと、弔意の強制につながること、国葬にする法的根拠がないことなどが挙げられる。一方賛成の理由は、選挙期間中の死であり、暴力に屈しないという国の毅然な姿勢を示すチャンスであること、首相として憲政史上最長の在任期間だったこと、諸外国が弔意を表しているのに日本が国として葬儀をしないのは失礼ではないかということ、個別外遊外交より弔問外交の方がコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスが格段にいいこと、日米関係を主軸とした戦略的外交を主導したことなどであろう。

 

≪エリザベス女王の国葬≫

安倍氏の国葬当日は各地で反対デモが計画されているほか、国連総会が20日から国葬前日の26日までニューヨークで行われており、外国首脳の出席が予定よりも大幅に減りそうである。対して19日に行われたエリザベス2世の国葬には200近くの国や地域から、日本の天皇皇后両陛下をはじめ約500人の王族や要人が参列した。こちらは誰も異を唱えていない。「君臨すれども統治せず」の言葉通り、イギリスの女王は政治にほとんど関与してこなかったからだ。家庭内でのトラブルは多少あったものの、世界最高齢、イギリス史上最長在位の君主であり、「英国の母」と慕われ続けてきたエリザベス2世、だからこそ国葬でなければ却って不自然である。功罪の評価を定めることが不可能な元首相で現役政治家だった安倍氏と比較するのはフェアではない。むしろここまできたら反対したり葬儀を妨害したりしないで静かに死者を追悼できないものか。


 

 


 

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