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米国企業は今、さまざまな理由から中国と台湾との関係を慎重に見極めているという。有事の際に米国経済が最も深刻な影響を受けるのは、台湾でインターネット接続が失われることだと米専門家は指摘する。その問題点とは。

ナンシー・ペロシ下院議長の訪台をめぐり、中国と台湾の関係は緊張が高まり、台湾海峡の両側で軍事演習がエスカレート。中国の習近平国家主席の「ゼロ・コロナ」政策は深刻な工場閉鎖を引き起こし、中国のウイグル人強制労働問題をめぐる米国政府の新たな輸入規制は、米国企業の数十億ドル(数千億円)規模の収益を脅かしているという。

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米ジョージ・メイソン大学の研究機関「マーカタスセンター」のクリスティーン・マクダニエル上級研究員は、米政治専門紙「ザ・ヒル」に論説を寄稿。その中で、米国企業にとっては、新型コロナウイルスの感染拡大による工場閉鎖と、米国政府による反強制労働法が喫緊の問題だと指摘。だが、台湾海峡で軍事衝突の危機が現実となった場合、米国経済全体への2つの重大なリスクにさらされる。それがコンテナ輸送とデジタルフローの混乱だと定義づけた。
同氏は、「北京、台北、ワシントンの密室で、さまざまなウォーゲームのシナリオ予測が繰り広げられたことは間違いない」としている。だが、中国による台湾攻略がどのように展開され、どのように脆弱性が露呈するかについての公開情報は乏しい。「新アメリカ安全保障センター」や「戦略国際問題研究所」など米シンクタンクの研究報告などが公表されているだけだが、これらの分析は経済効果よりも、主に軍事戦略と結果に焦点を当てたものだ。
そんな中、マーカタスセンターの最新調査によると、中国からの悪意のあるサイバー攻撃は、台湾の港と海底データケーブルの陸揚げ室(ランディングステーション)などを標的に設定。マクダニエル氏は、「これは必ずしも驚くべきことではないが、米国経済がこの地域に広範で深く関与し、依存していることで差し迫ったリスクが浮き彫りになった」と分析した。
同調査は、その攻撃対象は他にも鉄道駅などの交通機関、軍事施設や台湾の諜報機関を含む政府施設で、電気通信施設、情報通信技術に関連する施設としている。
有事の際、台湾海峡とその周辺海域におけるコンテナ輸送への影響は比較的容易に想定できるとした上で、「台湾のデジタルインフラへの混乱は見過ごされがちだが、それは間違いだ」とマクダニエル氏は警告する。
台湾は、半導体製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)により、製品市場にとって不可欠なグローバルバリューチェーン(GVC)の重要拠点だ。GVCとは、「複数国にまたがって配置された生産工程の間で、財やサービスが完成されるまでに生み出される付加価値の連鎖」のことをいう。それは海底に張り巡らされた何百ものケーブルによるインターネット接続に依存しているのだが、そのデータネットワークこそが、台湾を含むあらゆる場所で脆弱なのだという。
