2022-09-09 政治・国際

ロシアから天然ガス供給停止で窮地のドイツ 冬場に備え、閉鎖予定の原発を稼働継続決定

© Photo Credit: Reuters /達志影像 Isar 2

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「背に腹は代えられない」とはこのことか。2035年以降、脱炭素、脱原発で自然エネルギーに移行するため、今年3月、「再生可能エネルギー法」改正案を公表したドイツ。ところが、ロシアからの天然ガス供給が事実上停止されたことで、政府は急きょ、火力発電を天然ガスから石炭に切り替え、年内で停止の方向だった原子力発電所もこの冬に備え、2基の稼働継続を決めた。

ドイツ政府は今週、国内の原発3基のうち2基について、今年末の期限を超えて稼働可能な状態を維持すると発表した。天然ガスの供給がひっ迫する冬季に、十分な電力を確保するためだ。

国内の原発3基はいずれも今年末で配電網から切り離す予定だが、南部の「イザール2」と「ネッカーベストハイム2」の2基は、非常用の予備電源として来年4月半ばまで利用できるようにしておくという。

ロイター通信によると、ハーベック経済・気候保護相は今週、今回の措置は今年末までに原発から撤退するという政府の以前からの約束を破るものではないと強調。その上で、欧州エネルギー市場の引き締まりを考慮すると、冬季に電力供給が数時間危機的な状況に陥る可能性があることが明らかになったと説明した。

同氏は「危機的状況や極端なシナリオが発生する可能性は非常に低い」と述べつつ、電力確保のために必要なことをすべて行うべきだとの考えを示した。

米ブルームバーグによると、ロシアが欧州向け主要パイプライン経由の天然ガス供給停止に動いたことで、5日のガス・電力価格は大きく上昇。経済や社会、金融分野への大打撃につながりかねない危機回避に政府が取り組む緊急性が増した。

ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は緊急電話会談で、冬が終わるまでエネルギー分野での相互支援で合意した。9日の欧州連合(EU)エネルギー担当相会合を前に、共同戦線を張っている。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は社説で、そんなドイツの政策転換を「中途半端な原発政策」とし、「原子炉2基の稼働延長は現実の一時的な受け入れに過ぎない」と批判した。

同紙によると、ドイツの3基の原子炉は現在、国内電力需給の6%しか賄っておらず、今回の決定はドイツのエネルギー危機を完全に解決するものではないという。

石油価格が急騰し、プーチン大統領によるウクライナ侵攻に対する欧州による制裁への対抗策として、ロシアは天然ガスの供給を制限。そのため、ドイツは風力と太陽光だけでは産業経済に十分な電力を提供できず、原発の維持は明確な解決法のように見える。だが、文化や政治の面で原子力に対する反対が根強いドイツでは、そうでなかった。「これは、緑の党に所属するハーベック経済・気候保護相にとって、とりわけ難しい問題だ。同党は1970年代の反原発運動を起源としているからだ」とWSJ紙は指摘。

さらに、「3基の原子炉のうち2基だけの運転許容期間を延長するというハーベック氏の、痛み分けのような決定は、現在でもグリーン政策の考え方が残っていることを反映しているのかもしれない」と同紙は分析した。

WSJ紙によると、原子力に関するドイツの世論は今年、急激に変化したという。「有権者の大多数は現在、原子力が不可欠なエネルギー源で、脱炭素に向けた代替エネルギー源にもなると認識しており、活用を支持している」とし、「その支持は今後何年も続く可能性がある。政治家たちもいつの日か、最終的に一般市民の知恵に追いつくかもしれない」としている。

原発に加えドイツ政府は昨年、脱炭素戦略として石炭による火力発電の段階的廃止(フェーズアウト)完了時期を30年に前倒しし、同年までに国内総電力需要の80%を再生可能エネルギー発電で供給することを含むエネルギー計画に合意していた。

だが、それも石炭火力発電もまた、電力不足を賄うためには、もはや避けられなくなった。さらに追い打ちをかけるように、この夏の猛暑による渇水が大きな逆風になっている。

ハーベック氏は、「(欧州を襲った干ばつで)河川や湖の水位が下がり、ひっ迫する天然ガスの代替に使用しなければならない石炭を発電所に輸送することが困難になっている」と明かした。

石炭はドイツの大動脈であるライン川などの河川で貨物船により輸送しているが、船舶が航行困難になる水準まで水位が大幅に下がっているという。そのため、航行する船舶は貨物積載量を通常の半分以下に抑えているというのだ。ドイツ商工会議所連合会(DIHK)は「内陸水路による輸送量減のため、輸送費は既に大きく上昇した」と指摘。それがまた、電力価格に反映されることになる。

エネルギー危機に直面している欧州の中でも、経済大国のドイツは特に深刻だ。


 



 

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