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「背に腹は代えられない」とはこのことか。2035年以降、脱炭素、脱原発で自然エネルギーに移行するため、今年3月、「再生可能エネルギー法」改正案を公表したドイツ。ところが、ロシアからの天然ガス供給が事実上停止されたことで、政府は急きょ、火力発電を天然ガスから石炭に切り替え、年内で停止の方向だった原子力発電所もこの冬に備え、2基の稼働継続を決めた。
ドイツ政府は今週、国内の原発3基のうち2基について、今年末の期限を超えて稼働可能な状態を維持すると発表した。天然ガスの供給がひっ迫する冬季に、十分な電力を確保するためだ。
国内の原発3基はいずれも今年末で配電網から切り離す予定だが、南部の「イザール2」と「ネッカーベストハイム2」の2基は、非常用の予備電源として来年4月半ばまで利用できるようにしておくという。
ロイター通信によると、ハーベック経済・気候保護相は今週、今回の措置は今年末までに原発から撤退するという政府の以前からの約束を破るものではないと強調。その上で、欧州エネルギー市場の引き締まりを考慮すると、冬季に電力供給が数時間危機的な状況に陥る可能性があることが明らかになったと説明した。
同氏は「危機的状況や極端なシナリオが発生する可能性は非常に低い」と述べつつ、電力確保のために必要なことをすべて行うべきだとの考えを示した。
米ブルームバーグによると、ロシアが欧州向け主要パイプライン経由の天然ガス供給停止に動いたことで、5日のガス・電力価格は大きく上昇。経済や社会、金融分野への大打撃につながりかねない危機回避に政府が取り組む緊急性が増した。
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は緊急電話会談で、冬が終わるまでエネルギー分野での相互支援で合意した。9日の欧州連合(EU)エネルギー担当相会合を前に、共同戦線を張っている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は社説で、そんなドイツの政策転換を「中途半端な原発政策」とし、「原子炉2基の稼働延長は現実の一時的な受け入れに過ぎない」と批判した。
同紙によると、ドイツの3基の原子炉は現在、国内電力需給の6%しか賄っておらず、今回の決定はドイツのエネルギー危機を完全に解決するものではないという。
石油価格が急騰し、プーチン大統領によるウクライナ侵攻に対する欧州による制裁への対抗策として、ロシアは天然ガスの供給を制限。そのため、ドイツは風力と太陽光だけでは産業経済に十分な電力を提供できず、原発の維持は明確な解決法のように見える。だが、文化や政治の面で原子力に対する反対が根強いドイツでは、そうでなかった。「これは、緑の党に所属するハーベック経済・気候保護相にとって、とりわけ難しい問題だ。同党は1970年代の反原発運動を起源としているからだ」とWSJ紙は指摘。
さらに、「3基の原子炉のうち2基だけの運転許容期間を延長するというハーベック氏の、痛み分けのような決定は、現在でもグリーン政策の考え方が残っていることを反映しているのかもしれない」と同紙は分析した。