2022-09-08 政治・国際

地球の海面上昇もたらす南極の「終末氷河」 融解が予想以上に進行、近く大きな変化も

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注目ポイント

南極大陸のスウェイツ氷河は崩壊の危険性が高く、地球規模の海面上昇の脅威をもたらすことから「終末(ドゥームズデー)氷河」と呼ばれている。専門家らはこの氷河の融解が予想以上に進行し、今後数年でさらにペースが上がる可能性があると指摘。米CNNは、極端な海面上昇の懸念を増幅させていると伝えた。

完全に溶けて消滅すれば、地球全体の海面を数十センチ上昇させるというスウェイツ氷河は、温暖化によりその水中の基盤が侵食されている。英国南極観測局が今週、英学術誌「ネイチャー・ジオサイエンス」で発表した研究報告書で、同氷河が歴史的にどのように後退してきたかを図面化し、そうすることで氷河が将来いかに融解してくかを検証した。

それによると、過去2世紀のある時点で氷河の底が海底からはがれ、現在は年間2・1キロのペースで後退していることが分かった。これは専門家が過去10年ほどで観察した速さの約2倍のペースだ。

研究報告書を共同でまとめた米・南フロリダ大学の海洋地球物理学者アラステア・グラハム氏は、直近の急速な崩壊は20世紀半ばまでに起こった可能性があると指摘。スウェイツ氷河を抑えるのに役立っている海底の尾根の部分を過ぎて後退すると、近い将来、急速な後退を引き起こす可能性を示唆しているという。

「スウェイツ氷河は現在、爪だけで支えているような状態で、将来、氷河の底の浅い尾根の部分から後退すると、1~2年という短期間に大きな変化が起きる可能性がある」と報告書の共同作業者で海洋地球物理学者のロバート・ラーター氏は警告する。

南極大陸のワルグリーン海岸に位置するスウェイツ氷河は、地球上で最も幅が広く、面積では米フロリダ州よりも大きい氷河の一つだ。しかも、米航空宇宙局(NASA) によると、スウェイツ氷河は、海面を最大4・8メートル上昇させるだけの氷量を持つ西南極氷床の一部に過ぎないとしている。その西南極氷床は南極横断山脈の西にあり、乗っている岩盤は海面よりもかなり下にあるという。

地球温暖化により、この氷河の融解が進行し、海面上昇に影響を与えるおそれが大きいため、注視されているのだ。

研究者たちはすで1973年、スウェイツ氷河崩壊の危険性について調査を始めていた。それからほぼ10年、氷河が乾燥した陸地ではなく、海底に接地しているため、水温の高い海流が氷河を下から溶かし、不安定にする可能性を確認した。

21世紀になると、研究者たちはスウェイト氷河の急速な融解を記録し始め、2001年の衛星データは、接地線が年間約1メートルのペースで後退していることが分かった。

20年には水温の温かい海流が氷河の底を横切って流れ、下から溶けていたという証拠を発見。そして昨年、スウェイツ氷河をかろうじて支え、氷が海に自由に流れ出ることを防いでいるスウェイツ棚氷が5年以内に砕ける可能性があることが判明した。「衛星データから、大きな亀裂が棚氷の表面全体に広がっているのが確認でき、本質的に氷の構造を弱めていることが分かる。フロントガラスのひびのようなものだ」と英国南極観測局の海洋学者ピーター・デイビス氏はCNNに語っている。

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