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インドは先週末、初の国産航空母艦「ビクラント」を就役させた。これでインドの空母はロシアから購入した「ビクラマディティヤ」に加え、2隻体制となる。経済・軍事両面で重要なシーレーン(海上交通路)であるインド洋への進出姿勢を強める中国をけん制し、海軍力の増強を図る狙いだ。
そんな中、インドが空母「ビクラント」を23年後半に実戦配備すると、空母2隻を運営する世界で5か国目の海軍大国となるという。同空母は艦載機の発進に、従来の「スキージャンプ」方式を採用。戦闘機を含め30機の航空機が搭載できる。04年にロシアから購入し、改装されたソビエト時代の空母「ヴィクラマーディティヤ」とともに、インド海軍の空母打撃群を構成する。
軍事評論家で元インド陸軍将校のアジャイ・シュクラ氏はワシントン・ポスト紙に、政府は万一の紛争に備え、中国のインド洋へのアクセスを遮断するという戦略的目的を達成するため、海軍が最終的に3~4隻の空母を必要とするかどうかを議論していると述べた。
「インドが海軍力増強ついて検討するという意味は、パキスタンと競合するアラビア海の制海権と、ベンガル湾からマラッカ海峡までを制して中国を遮断するということだ」とシュクラ氏は説明。「そのため、インドには空母が必要だ」と続けた。
歴代の米国政権はインド海軍との軍事協力を進めてきたが、それはインドを中国への重要な対抗軸とみなしているからだという。日本、米国、オーストラリア、インドの4か国による安全保障や経済を協議する枠組み「クワッド」は、発足した20年以降、海軍演習を2回実施。6月にはインドはフリゲート艦を派遣し、ハワイ近くで米海軍との合同演習に参加した。
中国は、この枠組みの深化を警戒し、米国が21世紀に冷戦型の新たなブロックを構築していると非難している。
ワシントン・ポスト紙は、新空母「ビクラント」はインド国内で建造されたものの、多くの重要部品は輸入されたと解説。空母の動力は米ゼネラル・エレクトリック社製の発電機により供給され、イスラエル製レーダーを搭載。艦載機は、ロシアのミグ戦闘機、フランスのダッソーラファール戦闘機や米国のF/A-18ホーネットで、インドの航空機は含まれていない。
何年もの間、インドは空母の電磁カタパルトや高度なジェットエンジンなど、米国の最先端技術を手に入れようとしてきた。その一方、インドは米国に接近し過ぎることに消極的で、同時に米国も機密技術をインドと共有することに消極的だった。
インドの国家安全保障会議事務局の元局員で現在はニューデリーのシンクタンク「オブザーバー・リサーチ基金」の研究者ラジェスワリ・ピライ・ラジャゴパラン氏は、両国政府間の交渉はほとんど成果を上げていないことが多いと説明。だが、それはすぐに変わる可能性があると指摘した。
ラジャゴパラン氏は、世界最大の艦隊を持つ中国が公開した空母「福建」に搭載され電磁カタパルトなど、先端技術に驚かされたいう。「中国は過去10年で競争力を大幅に向上させたことを証明した」とし、「危機感に迫られたインド側から、『米国と協力して海軍力を増強すべき』という声が高まるだろう」と語った。