注目ポイント
クリープハイプのフロントマン・尾崎世界観さんが、中国語で歌われる音楽の魅力について考える新連載。初回は日本のアイドルグループをモデルに結成されたという「小虎隊」の一曲を取り上げます。
中国語の、あの丁寧にお辞儀をするような音の動きが好きだ。可愛らしさの中にどこか力強さもあって、聞いているだけでふっと肩の力が抜ける。そして音楽の場合、そのことがより顕著だ。中国語が持つ独特のうねりは、歌とも相性が良い。細く狭まったメロディーの奥深くまで言葉が入り込んで、歌としてより聴き手に届く。
自分自身、作曲をしていて出来上がったメロディーに言葉を当てる際、日本語の語尾の硬さに戸惑うことが多々ある。一音一音がどっしりとしているせいで、メロディーの方はもっと繊細な動きをしていても、言葉がそこまでついてこない。そこで泣く泣くそのメロディーの動きを諦め、理想のメロディーのやや手前で歌う。でもその分、しっかりと身の詰まった力強い音の響きが日本語にはあるのだけれど。
もしも中国語で歌うことができれば、もっと繊細なメロディーの動きが表現できるかもしれない。
この連載では、そんな中国語で歌われる音楽の魅力について考えていこうと思う。知識が無いということは、とても自由だ。
まだ意味になる前の、ただ音でしかない言葉を、中国語を知らない日本人の立場から突き詰めていきたい。
今回取り上げる小虎隊の「紅蜻蜓」は、日本のシンガーソングライター長渕剛の大ヒット曲「とんぼ」のカバーだ。
小虎隊は当時台湾でも人気があった「少年隊」をモデルに結成されたアイドルユニットで、これだけでもう日本との深い繋がりを感じる。
早速「紅蜻蜓」を聴いてみると、メンバー三人の力強い声が重なるイントロから一転、Aメロに入った途端、良い意味でその声に不安を感じる。それでも、シンプルなオケの中を、ユニゾンのボーカルが規則正しく列を成して進む。Bメロでやや熱を帯びるけれど、サビではやっぱりまたどこか不安げだ。
その一方で、本家の「とんぼ」からは、曲全体を通してどことなく照れを感じる。オケが引っ張るのを何度も声で振り払いながら、リズムに置いていかれるギリギリのところで辛うじて前へ進む。あえて演奏と一体化していないことで、聴き手の耳がより歌に惹きつけられる。そして、ぐにゃぐにゃと揺れる歌唱にも負けない、その強いメロディーが一層際立つ。そもそも「とんぼ」の場合は、そのぐにゃぐにゃ自体がしっかりとしたグルーヴを持っているのだけれど。
本家の「とんぼ」がリズムを後ろへ引っ張るやや不真面目な歌唱なのに対して、小虎隊の「紅蜻蜓」は、規則正しく前へ行進する真っ直ぐな歌唱だ。真っ直ぐだからこそ、そのやけに前向きな歌詞も相まって、しっかりと不安を感じる。