注目ポイント
富山県の北アルプス山中に湧く高天原温泉。温泉までは、片道約12時間の山歩きが必要なため、「日本一遠い温泉」といわれている。
8月も終盤、暦の上では「秋」になりました。朝晩は過ごしやすい日も増えてきましたね。この季節は「行楽の秋」ともいわれ、登山のシーズンでもあります。山歩き後に入る温泉は相性抜群で、登山と温泉をセットで楽しむという方も多いのではないでしょうか。山の温泉の中には、車では行けない山奥に湧いている秘湯もたくさんあります。今回は、そんな歩いてしか行けない温泉の最高峰「高天原(たかまがはら)温泉」をご紹介します。

富山県の北アルプス山中に湧く高天原温泉。温泉までは、片道約12時間の山歩きが必要なため、「日本一遠い温泉」といわれています。山に慣れた健脚な方なら、1泊2日や日帰りでも行けなくはないですが、普通の人であれば3泊4日の行程で挑むのが賢明です。
もちろん大自然の山を相手にするため、本格的な登山用具が必須。登山初心者の私は、このために登山靴、50リットル以上入る大型ザック、ステッキ、かっぱ、帽子など10万円近くかけ、装備を整えました。
高天原温泉へのルートはいくつかあり、どこから向かっても所要時間は同じくらい。主要なルートは、富山県折立登山口から太郎平小屋、薬師沢小屋を経由して向かうものです。
登山上級者のメンバーに同行した私は、岐阜県の「新穂高温泉」から「鏡平山荘」「双六小屋」を経由する、少々レベルの高い、歩きごたえのあるルートで高天原温泉を目指しました。全行程3泊4日の登山です。

初日は朝6時に「新穂高温泉登山口」からスタート。お昼に「鏡平山荘」でカレーライスを食べ、16時前にその日の目的地である「双六小屋」に到着し、テント泊をしました。2日目は5時半に双六小屋を出発。「三俣山荘」を経由し、約7時間歩き続け12時半ごろに、ようやく「高天原山荘」にたどり着きました。
高天原温泉を管理する「高天原山荘」は、2011年に建て直された綺麗(きれい)な山小屋。水洗トイレや乾燥室、照明などの設備面も充実していて、快適に過ごすことができます。しかし、最終目的地の「高天原温泉」は、山荘から約20分山を下ったところに湧いています。疲れた身体に気合を入れなおし、ついに念願の温泉へ到着です。

山奥の川沿いに作られた露天風呂は、男性用、女性用、混浴の三つ。ミルキーブルーの美しいお湯が、太陽に照らされてキラキラと輝いています。ここに来るために2日かけ、温泉に飢えに飢えていた私には、心に染み入るような光景でした。
温泉は甘くて濃厚な硫黄の香り。舐(な)めてみると甘味が強めの薄塩玉子味です。ツルツルスベスベで、サラッと身体を包み込んでくれるような肌触りは、全身に蓄積された疲労が溶け出しそうな浴感でした。