注目ポイント
宮城県・石巻を主な舞台に、「アート」「音楽」「食」が共演する総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル(RAF)2021-22」の本祭後期が8月20日に開幕した。開催に先立ち、19日に催されたプレスツアーにザ・ニュースレンズ・ジャパンの記者が参加。実行委員長で音楽プロデューサーの小林武史が「被災地は大変だから、かわいそうだからという思いを卒業し、石巻に根付いている価値をもっと大事にしていきたい」と語ったこの芸術祭は、訪れた者に何をもたらすのか。
宮城県石巻市の南東に伸びる牡鹿半島。荻浜は、その根元に打ち込まれた楔のような鋭利な入江だ。牡蠣の養殖の名所で知られ、夏の日差しに輝く海面に、稚貝を育てるためのイカダがあちこちで波に揺られていた。
そんな海沿いに設えられた砂利の小径を歩き始めると、どこからともなく発される「音」の存在に気付く。馴染みのない野生動物の鳴き声。楽器の弦を規則的に、ただ爪弾くような単調な調べ。時には旋律を伴う音楽が流れ、消えていく。
これは、「リボーンアート・フェスティバル2021-22」(以下、RAF)の実行委員長で音楽プロデューサー・小林武史による「CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2」という作品。小径の各所に設置されたスピーカーが織りなす「音」のインスタレーションだ。小径はRAFを代表する作品のひとつ、名和晃平による彫像「White Deer(Oshika)」が展示されるホワイトシェルビーチへと続いていて、来場者はまずこの音の洗礼を受けることになる。
風景に音を添加するというシンプルな作品だが、「CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2」がもたらす気付きは根源的だ。本来その場にはあり得ない音、いわば“不自然な音”に遭遇した来場者は、無意識のうちに耳をそばだて、そして発見する。荻浜の波の音、昆虫たちの鳴き声、風が木々を通り抜ける気配、それに伴う葉擦れの囁き。これらは当たり前すぎて私たちの認識をすり抜けてしまいがちな、「世界の音」であり、「石巻の音」だ。石巻が擁する自然の豊かさを想起させるとともに、ときに自然は牙を剝くこと——2011年にこの地を襲った津波を筆頭とした、土地の記憶を呼び起こす力がある。
RAFは2017年に始まり、2019年の第2回を経て、今回の2021-2022年は3度目の開催となる(第3回はコロナ禍を見据え、2021年8月・9月に前期、2022年8月・9月・10月に後期という二部制をとった)。石巻市街地に3つのエリア、牡鹿半島に2つのエリアが設けられ、国内外21組のアーティストによる26点の作品が散在する形で展示されている。こうした展示の狙いについて、実行委員長の小林は河北新報のインタビューにこう答えている。
「人が暮らす場所、自然豊かな場所と展示環境がそれぞれ異なる。市街地は人間の営み、社会や人間同士の関係を意識させる作品が集まった。牡鹿半島エリアの作品は人と自然、人と動物、生命と非生命との関係を感じさせる」