2022-08-31 観光

石巻「リボーンアート・フェスティバル(RAF)2021-22」が示す視座 被災地が見据える「現在」と「未来」

注目ポイント

宮城県・石巻を主な舞台に、「アート」「音楽」「食」が共演する総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル(RAF)2021-22」の本祭後期が8月20日に開幕した。開催に先立ち、19日に催されたプレスツアーにザ・ニュースレンズ・ジャパンの記者が参加。実行委員長で音楽プロデューサーの小林武史が「被災地は大変だから、かわいそうだからという思いを卒業し、石巻に根付いている価値をもっと大事にしていきたい」と語ったこの芸術祭は、訪れた者に何をもたらすのか。

宮城県石巻市の南東に伸びる牡鹿半島。荻浜は、その根元に打ち込まれた楔のような鋭利な入江だ。牡蠣の養殖の名所で知られ、夏の日差しに輝く海面に、稚貝を育てるためのイカダがあちこちで波に揺られていた。

そんな海沿いに設えられた砂利の小径を歩き始めると、どこからともなく発される「音」の存在に気付く。馴染みのない野生動物の鳴き声。楽器の弦を規則的に、ただ爪弾くような単調な調べ。時には旋律を伴う音楽が流れ、消えていく。

これは、「リボーンアート・フェスティバル2021-22」(以下、RAF)の実行委員長で音楽プロデューサー・小林武史による「CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2」という作品。小径の各所に設置されたスピーカーが織りなす「音」のインスタレーションだ。小径はRAFを代表する作品のひとつ、名和晃平による彫像「White Deer(Oshika)」が展示されるホワイトシェルビーチへと続いていて、来場者はまずこの音の洗礼を受けることになる。

「CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2」が配置されている小径。名和晃平による彫像「White Deer(Oshika)」が展示されるホワイトシェルビーチへと続いている。

風景に音を添加するというシンプルな作品だが、「CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2」がもたらす気付きは根源的だ。本来その場にはあり得ない音、いわば“不自然な音”に遭遇した来場者は、無意識のうちに耳をそばだて、そして発見する。荻浜の波の音、昆虫たちの鳴き声、風が木々を通り抜ける気配、それに伴う葉擦れの囁き。これらは当たり前すぎて私たちの認識をすり抜けてしまいがちな、「世界の音」であり、「石巻の音」だ。石巻が擁する自然の豊かさを想起させるとともに、ときに自然は牙を剝くこと——2011年にこの地を襲った津波を筆頭とした、土地の記憶を呼び起こす力がある。

RAFは2017年に始まり、2019年の第2回を経て、今回の2021-2022年は3度目の開催となる(第3回はコロナ禍を見据え、2021年8月・9月に前期、2022年8月・9月・10月に後期という二部制をとった)。石巻市街地に3つのエリア、牡鹿半島に2つのエリアが設けられ、国内外21組のアーティストによる26点の作品が散在する形で展示されている。こうした展示の狙いについて、実行委員長の小林は河北新報のインタビューにこう答えている。

「人が暮らす場所、自然豊かな場所と展示環境がそれぞれ異なる。市街地は人間の営み、社会や人間同士の関係を意識させる作品が集まった。牡鹿半島エリアの作品は人と自然、人と動物、生命と非生命との関係を感じさせる」

会場は広大だ。市街地エリアから牡鹿半島エリアの最寄りの展示まで車で30分近くかかる。来場者はアートに触れるため、石巻のあちこちを動き回ることになる。肝心なことは、この「動き回る」という所作自体が、石巻という街に通底する物語を感じ取るための通過儀礼となっていることだ。

市街地で車を走らせれば、立ち並ぶ建物の多くが真新しいことに否が応でも意識が向く。2011年のあの大震災を境に、街がリセットされてしまったような感覚を抱くかもしれない。だが、人がそこに暮らす以上、脈々と続いてきたもの、受け継がれているものは確かにある。アートのもたらす作用はさまざまな捉え方ができるが、ここでひとつ挙げるとすれば「異化」だ。アート、すなわち「異物」を日常に配置することで、当たり前の風景に新規の視点を持ち込み、認識からこぼれ落ちてしまう本来そこにあったものが浮かび上がる。「CIRCLE of MUSIC in the LIFE #2」がそうであったように、石巻市街地の渡波エリアに設置された「サーフ・エンジェル」もそんな作品のひとつだ。

屋内, 木製, 建物, キッチン が含まれている画像

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「サーフ・エンジェル」。今期のRAFのキービジュアルにもなっている。

渡波駅から徒歩5分ほど、住宅街にひっそりと佇む水産物加工場に「サーフ・エンジェル」は展示されている。加工場の保冷倉庫に足を踏み入れると、彫像のスケール感に圧倒された。高さ約5.5メートル。彫刻家の小谷元彦の作品で、ギリシア神話の勝利の女神・ニケをモチーフとしたこの彫像は、波上のサーフボードに直立し、顔がない。そのコンセプトについてRFA事務局長・松村豪太はこう解説した。

「石巻は、ボランティアの方を含め、多くの方の助けとともに歩んできました。(特定の顔がないことは)無数の匿名のボランティアの人々の想い、またそうした人々自体を象徴する作品であるためと、作家の小谷氏から伺っています。昨年、震災から10年を迎えたところですが、今後も多くの方と共に前に進んでいく、希望に向かって波をきっていく、そうした想いが込められているそうです」

この水産物加工場は、2011年に被災した。その後、営業は停止し、かつて石巻の海の幸が積み上げられていた倉庫は空っぽになった。現在の整然と復興された石巻の街並みを眺めたとき、震災の記憶や、復興のために多くの人々がこの街に集い、一人ひとりが持てるものを持ち寄った記憶は、磨りガラスを通して眺めたようにその具体性がどこか喪失して映る。空っぽになってしまった倉庫に今、かつての名もなき人々を象徴する像が設置されているという事実は、震災以前の街の在り方や、震災後にこの地で生まれた利他の営みを改めて想起させる触媒となる。

屋外, 建物, 道路, バス が含まれている画像

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「サーフ・エンジェル」が展示されている旧水産物加工場。

震災からの復興をめぐる物語は、ときに危うさを伴うものだ。犠牲や損失を語り継ぐことは重要だが、震災の記憶を固定化してしまい、被災地はいつまでも被災地として認知されてしまう。「過去」に囚われてしまうのだ。RAFの来場者は、アートをめぐる道中で、石巻のさまざまな側面を目の当たりにする。移住してきた人々による、新たな活気がある。街角に埋没するように、震災以来、営みを止めたかつての街の象徴がある。牡鹿半島では、女川原発が再稼働しようとしている。ツアーガイドは「石巻には複雑な事情がある」と述べた。RAFを通じてこの街と対峙したとき、提示されるのは「人々の絆」や「復興に向けて立ち上がる人々」といったわかりやすい物語だけではない。人が暮らしを営むうえで内包せざるを得ない、さまざまな論点を突きつける何かであり、それこそが石巻という街の「現在」を示すもの。それは「未来」へと前進していく意志とも換言できる。

屋外, ストリート, 座る, 歩道 が含まれている画像

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石巻南浜津波復興祈念公園に設置された看板。

震災被害が大きかった南浜地区も展示会場になっている。復興祈念公園周縁エリアだ。公園のほぼ中央に位置するみやぎ東日本大震災津波伝承館では、画家・弓指寛治の「半透明な森」という作品が見られる。津波伝承館の窓ガラスに高さ3.5~4.5メートル、横幅20メートルのフィルムを貼り付け、その名の通り半透明の色彩で木々や小動物などを描いた。

丘の上にある虹

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みやぎ東日本大震災津波伝承館。

 

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画家・弓指寛治による「半透明な森」。

本来、津波伝承館の窓から望む風景は、背の低い草が生茂る平原だ。近隣の山で採取したコナラやモミジ、松などの植樹が進んでいるが、成長し、木立を形成するにはまだ長い時間がかかる。作家の弓指は自身で植樹を体験し、この公園の未来を想像して筆をとった。鑑賞者は公園の未来の姿と、絵画の奥に透ける現在の風景を重ねて眺めることになる。弓指はこの作品についてこんなコメントをした。

「管理して植えた木も全て生き残るわけではなく、自然淘汰されていく。残れるものが残り、この場所の成長と変化はその木々に委ねられる。やがてリスや鳥や虫が住みつくかもしれない。いいなあ。楽しみです」

街は変化する。それは、そこに存在する全ての命と、自然環境との相互作用が生み出す流動性の発露ともいえる。今回のRAFが掲げるメインテーマは「利他と流動性」。コロナ禍で社会活動が低迷し、先行きが見通せない今だからこそ、RAFと石巻という街の在り方が投げかける物語は、私たちが進むうえでの指針を示す可能性を秘めている。

 

 

Reborn-Art Festival 2021-22

テーマ:利他と流動性
会期:夏 2022年8月20日(土)~ 10月2日(日)
※ 休祭日:8月24日(水)、9月7日(水)、9月14日(水)
会場:宮城県 石巻市街地(石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波)、
牡鹿半島(桃浦・荻浜、鮎川)
鑑賞時間:— 石巻市街地(石巻中心市街地、復興祈念公園周辺、渡波) —
平日・土日祝 10:00〜17:00(16:30最終受付)
— 牡鹿半島(桃浦・荻浜、鮎川)—
平日 10:00〜16:00(15:30最終受付)
土日祝 10:00〜17:00(16:30最終受付)

※ 施設、作品によって異なる場合があります

 

・RAFオフィシャルサイト


作者:小神野真弘


 

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