注目ポイント
台湾で妖怪ブームが起こっていると言われて久しい。先日も台湾妖怪界の第一人者・何敬堯氏の新著『台湾の妖怪伝説』が邦訳され、本格的な日本デビュー作として注目を集めた。ブームが与えた影響や、台湾と日本の妖怪の共通点や違いについて、『何かが後をついてくる 妖怪と身体感覚』や『現代台湾鬼譚』など、台湾の妖怪を扱った著作も多い國學院大学文学部日本文学科の伊藤龍平教授に聞いた。
ちなみに、台湾には日本のカッパに行動がよく似た「水鬼」の伝承がある。川や池に近づく人間を水中に引き込んで殺してしまう点で両者はよく似ているが、水鬼には人を襲う明確な動機がある。溺死者の霊魂——いわゆる地縛霊が身代わりとして人間の命を奪うことで成仏し、身代わりになった人は新たな水鬼となり、次の身代わりを狙うのだ。これは中華圏の「替死鬼」という伝統的な霊魂観にもとづくもので、子どもたちが興じる「鬼ごっこ」も、由来は定かではないものの、鬼(霊)が入れ替わるという点で発想がよく似ているという。
都市伝説や原住民の伝承も新たな妖怪に
日本で知名度の高い怪談といえば「トイレの花子さん」。台湾にも「紅衣小女孩」(赤い服の女の子)という都市伝説があり、伊藤教授が南台科技大学の学生に取ったアンケートではもっとも知名度のある妖怪だった。
紅衣小女孩は、深夜、学生寮やホテルのドアをノックする音が聞こえてドアを開けてみると、誰もいなかったり、赤い服を着た女の子が去っていったりする話で、学校の女子トイレのドアをノックすると返事が聞こえるトイレの花子さんとシチュエーションは微妙に違うものの、ノック音が呼び水となる、赤い服(スカート)を着ているなど共通点もある。
こうした都市伝説や、タイヤル族に恐れられていた話し言葉を奪う「ウトゥフ」のような台湾原住民(先住民)が語り継いできた妖怪など、台湾にはまだまだ怪異の主体が存在する。
かつては九州地方のマイナーな妖怪だった「イッタンモメン」や「ヌリカベ」は、水木しげるが描いたことでメジャーになった。伊藤教授は、台湾の妖怪ブームを機会に図鑑や事典が編まれていけばいくほど、これまで「妖怪」とは見なされていなかった怪異や体験が新たな妖怪として認知されていくだろうと話す。人間の恐怖心や、恨み、憧れなどが生み出す妖怪は、台湾でも時代や人々の意思によって新たな命が吹き込まれていく。