2022-08-29 政治・国際

月イチ連載「山本一郎の#台湾の件」第6回:台湾を愛した安倍晋三さん「国葬」問題

注目ポイント

安倍晋三元首相が凶弾に倒れた事件は台湾にも大きな衝撃を与えました。日本国内では「国葬」や「旧統一教会問題」をめぐってさまざまな議論が起きていますが、歴代最長の宰相として東アジアや台湾に大きな影響を与えてきた安倍氏なきあとの安全保障・経済問題をどう考えるべきか——山本一郎さんの月イチ連載です。

日本人は本当の意味での戦争の終わりに直面することになる

先般、台湾の友人たちから安倍晋三さんの訃報を受けて、深い悲しみとともに7割もの台湾人が安倍さんに追悼の考えがあることが報じられていました。

台湾に所縁の深いコラムニスト米果さんの記事では「日本台湾交流協会が設置したメッセージボードは、あっという間に追悼の言葉で埋め尽くされた」エピソードとともに、安倍さんがなぜ台湾の皆さんに支持されてきたのかを記しておられます。必読であります。


安倍氏死去「悲しい」、台湾で7割超 対日関係の行方には楽観の世論|朝日新聞デジタル 

台湾人が故・安倍晋三氏に感謝する理由| nippon.com


日本では、政治家・安倍晋三の軌跡が描く功績とともに、宗教団体を隠れ蓑に霊感商法などの消費者問題をかねて引き起こし、日本政治裏面史として米ソ対立下の対共産勢力の前面に立った統一教会の問題について連日報じられています。現役閣僚を含む大物政治家の関わりについて告発が相次いでいて、大騒ぎになっていたんですよね。困ったものだなあ。

日本の中でも右派からの支持が強く、政策面では政治リスクを追ってなお安保法案を成立させ、不安定なトランプ政権の国際的な調整・窓口役までこなした安倍さんが、韓国発祥で多くの日本人の家庭を壊してきた統一教会と実はかなりベッタリやってきていたことが明るみに出ると、いままで安倍さんを支持してきた人を中心に認知的不協和を引き起こし混乱に陥っているさまが見て取れます。不運な暗殺から50日以上が経過してなお、日本社会に衝撃が残っているのもまた、安倍晋三さんの存在の大きさと、一筋縄ではいかない政治の複雑さ、奥の深さに国民が触れて、戸惑ってさえいるのではないかとも感じます。

裏を返すと、そのような問題のある宗教団体が歴史的経緯の中で自民党の保守傍流である岸信介さんと結託し、その後、子の安倍晋太郎さんや清和会直系でもある三塚博さん、さらには警察官僚から政治家に転身した亀井静香さんといった自民党の要職を担った人々の庇護のもと、岸信介さんの孫にあたる安倍晋三さんにまで系譜がつながり、それこそ終戦直後から現代にいたる政治課題として残り続けたのは異様としか言いようがありません。

言うなれば完全な日本政界全体を覆うスパイ事案そのものであって、それが宗教団体を標榜していたにせよ、韓国や北朝鮮の意を汲む組織が日本政治・自民党に深く食い込み、政策に影響を与え、日本政府中枢の判断・決断を下すに際して大なり小なり圧力がかかっていたことは間違いありません。その代弁人が安倍晋三さんその人であった面は紛れもない事実であって、おそらくは、日本人はこれから時間をかけて本当の意味での戦争の終わりに直面することになるのかもしれません。

他方で、前述の通り安保法制を通じて安倍晋三さんが日本憲政史において歴代最長の宰相であったことも踏まえて多くの影響を東アジア、台湾に与えてきました。もちろん、台湾問題を考えるにあたっては、本稿でもかねて指摘してきた通り中国のいう「一つの中国『原則』」とアメリカや日本なども念頭に置く「一つの中国『政策』」という概念的に異なる台湾認証に関して、いままで通り中国と台湾の関係を曖昧にしておけなくなってきた側面があります。日本の安全保障は台湾および台湾海峡を含むシーレーンの安定を大前提としており、短命に終わった第一次安倍政権、そして麻生政権で「自由と繁栄の弧」という大戦略を描いた谷内正太郎さんの構想が、長期政権となった第二次安倍政権の外交戦略の中心に据えられたことは特筆されるべきことです。

これらは、目下ゆるゆると緊張感が高まっていっている米中対立という新しい冷戦構造のなかで、再び最前線に立つ日本や台湾がどう手を取り合い双方の安全保障を実現するかという重大な課題を突き付けていることは間違いありません。

 

中国に一朝事あるときに台日がどう協力し得るのか

さらには、現在急速に問題視され始めている中国の経済問題が、通常の安全保障の問題とは別の確度から台日関係に大きな影響を与える可能性さえも指摘されます。大きな例で言えば、2019年ごろから問題が指摘されてきた中国経済におけるシャドウバンキング、中国経済の急成長の歪でもある不良債権問題が、現在では中国でトップ10に入る大規模不動産事業者や地域金融を担う銀行の破綻、株価急落、信用不振といった問題を2022年に入って続発させている現状は憂慮すべきことです。中国共産党が、共産主義なのに資本主義的な経済政策を成功させてきた原動力の、いわば燃えカス問題なんすよね。安全保障面では緊張感は持ちながらも、それはそれということで双方の繁栄のため進めてきた中国経済との連携も一波乱起きる可能性が高く、関係の深い台中・日中経済にも大きな影響を及ぼし始めています。


中国、不動産開発会社の資金需要へ慎重に対応=銀行監督当局 |ロイター


分かりやすく言うのであれば、急速な成長を続けてきた中国がいずれ飽和をし、成長がひと段落するのは当然としても、成長を前提として成り立ってきた中国経済が止まったときに繁栄を謳歌できなくなった中国国民が政治的・社会的にどのようなアクションを取る可能性があるのか。また、これらの中国経済の鈍化によって、信用不安の波が台湾や日本にやってきたとき、台日関係をてこにしてどこまで食い止めることができるのか、実は喫緊の対話をしなければならないフェイズに入ったのではないか、とも思うのです。

奇しくも、安倍政権末期よりアメリカが言い始めたステイトクラフト論をベースに日本でも経済安全保障によるサプライチェーンの護持は重要な政策課題となり、引き継いだ岸田文雄政権においても関連法の成立は政治的重要事項として最優先された経緯はあります。他方で、これらの問題は当然のように日本一国で完結するものではありませんし、台湾も他の東アジア諸国も同じ立場に立たされることから、通常の台湾海峡やサイバー攻撃のような安全保障の枠組みに加えて、むしろクライシスマネジメントとして中国発のアジア通貨危機のような問題にどう台日協力し得るのか考えなければならない状況にあるのです。

残念なことに、述べた通り統一教会問題にコロナ対策、今冬厳しいと見られる電力供給の逼迫と原子力発電再稼働という国内問題が山積している岸田政権において、必ずしも中国経済危機の問題が主要課題として政府の中で取り上げられる機会は多くありません。いくら台湾や日本がファンダメンタルズ良好な状態であるとしても、重要な主要貿易国のひとつである中国に一朝事あるときにどうするんやという議論は台湾とも充分にしておくべきというのが日本側の本音でもあります。

奇しくも、先の総裁選で岸田文雄さんと自民党総裁・総理大臣の座を安倍晋三さんの後援も受けて争った高市早苗さんが経済安全保障担当大臣でもあるため、このあたりの座組みは考えておく必要はあるのだろうなあと常に思っているところではあります。おそらくは、安倍晋三さんの墓前に誇れる報告をするのだとするならば、まさに将来を見据えて台日関係を経済・防衛両面でしっかりと築き上げましたという安心できる言葉なのではないのかとも思います。

我らが安倍ちゃんにも光あれば闇あり、悩ましい事案も属性もさまざまあったけど、それを乗り越えて台湾からの暖かいお言葉もいただき、また私らも李登輝さんら台湾の現代を支えてきた皆さんにも深い尊敬と哀悼を抱いています。願わくば、台日両国の心情が一層寄り添えるものでありますように。

あわせて読みたい