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米国とロシアの間で全面的核戦争が勃発すれば、核爆発によりもたらされる大量の煤煙や粉じんなどで太陽光が遮られ地球規模の飢饉(ききん)が起き、世界の全人口の約75%にあたる50億人以上が餓死するという衝撃的な研究結果が今週発表され、欧米の主要メディアが報じた。
米ラトガーズ大学の研究チームは、核戦争が起きた場合の6種類のシナリオを想定。米国とロシアの間で全面的核戦争になった場合、最悪のシナリオとして50億人以上が餓死するというシミュレーションが浮かび上がった。
研究チームによると、被害を推定する数値は、さまざまな規模の核戦争から算出。インドやパキスタン、米国、ロシアの大都市などで大火災が発生し、その火災旋風により巻き散らされる大気中の煤煙や粉じんの量をそれぞれ計算。さらに、米学術機関「アメリカ大気研究センター」が開発支援した気候観測ツールを使い、そんな環境下で主要穀物が生産される量を各国ベースではじき出したしたという。
報告書によると、たとえ小規模の紛争であっても、地球規模の食糧生産にとっては深刻な結果を招く。例えば、インドとパキスタンとの間で核兵器が使用された地域紛争が起きると、5年以内で世界の収穫は約7%減少するという。
また、米露間での全面核戦争では、地球の気流パターンにより核兵器使用後に発生する煤煙などは、農産物の輸出大国である米国や中国などの上空を覆うとしている。その結果、これらの国の穀物生産が壊滅状態になることで、他国への食糧危機を一気に加速させる。収穫量の減少に伴い、食料の輸出も減少し、生存のために輸入食料に依存しているアフリカや中東を中心に飢饉が広がる。
このシナリオでは、核爆弾の打ち合いが終わってから2年以内に地球上の4分の3にあたる50億人以上が飢餓に苦しむことになるという。また、3~4年後までに世界の穀物、食肉、漁業の収量は90%減少し、飢饉、混乱、崩壊はさらに広がり、その悪循環が加速する。
研究を率いたラトガーズ大学の気候科学者リリ・シア氏は、「例えば、オゾン層は成層圏の加熱により破壊され、地表でより多くの紫外線を生成する。これが食料供給に与える衝撃を理解する必要がある」と説明。「人類のほとんどが飢えに苦しみ、本当に悲惨なことになる」と警告。報告書も、「核戦争後の日照時間の減少、地球規模の寒冷化、起こるであろう貿易規制の可能性は、食料安全保障にとって世界的な大惨事になる」としている。
研究者はまた、現在、動物の飼料として使用されている作物を人間用に転用したり、食品廃棄物を削減することで、核戦争直後の損失を相殺できるかどうかを検討したが、大規模な核戦争では節約効果はほとんどないと結論付けた。
今回の研究は、2月にロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻が始まり、4月にはラブロフ露外相が核戦争の「深刻な」リスクを警告するなど、米国とロシアの間の潜在的な危機が再燃したことをきっかけに実施された。