2022-08-18 政治・国際

「オフには火鍋で苦労を分かち合う」台湾人選手を支える球団通訳の仕事

© Photo Credit: AP / 達志影像

注目ポイント

監督、コーチ、選手以外にも多くの人が関わって成り立っているプロ野球の世界。今回は外国籍選手とファン、フロント、首脳陣を直接結ぶ大切な役割を担う通訳ーー台湾出身で、現在は北海道日本ハムファイターズで王柏融選手の専属通訳を務める林庭逸さんにスポットを当てた。

林庭逸さんは1985年台湾生まれ。野球の名門校、台北の東園小学校で野球を始め、中学では右投げ左打ちの外野手として活躍。その後、岡山県の岡山県共生高校に野球進学した。

2012年、横浜DeNAベイスターズで王溢正選手、陳冠宇選手(ともに当時)の通訳を担当した。2017年、ベイスターズの打撃投手を経て、2020年から北海道日本ハムファイターズで王柏融選手の専属通訳を担当している。

 

日本の野球部に驚いたこと

――台湾の中学から日本の岡山県共生高校へ進学しましたが、野球部に何か違いはありましたか?

「日本の高校でみんなが丸刈りにしていたことと、練習用ユニホームの背中や手袋に自分の名前を書くことに驚きました。もう一つ、練習が長い。日本の高校は2時半に授業が終わって、それから練習を始めるので、練習終了がとても遅い。土日もほとんど休みがない」

――台湾はそうじゃないんですか?

「台湾の学校野球部は、12時に授業が終わって、それから練習します。土日は基本的に休みです」

――クラスは野球部選手だけのクラスでしたか?

「台北の中学の時は、クラスの生徒は野球部選手だけでした」

――高校生の時に日本での生活を始めて、すぐに馴染めましたか?

「最初は納豆にびっくりしました。高校の寮はおかずが少ないからご飯が余る。いつも空腹で、しかたなくご飯にマヨネーズや醤油や生卵をかけて食べました。それでも足りなくて恐る恐る納豆に手を出しました。何回か試しているうちにおいしくなりました。今では僕のエネルギー源になっています。他の台湾の選手も同じです。みんな最初は苦手ですが、いつの間にか食べられるようになります」

 

日台野球の共通点

――練習時や試合前のウォーミングアップの仕方で、何か台湾と違うところはありますか?

「ほとんど同じです。大リーグの選手がいやがると言われる全体練習も、台湾選手は反発しません。台湾の小中学校では全体練習をよくします。日本のやり方によく似ていて、チーム全体練習が多いんです。私はベイスターズと日ハムでやっていますが、プロの練習は、個人でやる時もあります」

――マナーの違いに戸惑いはありませんでしたか?

「特には感じませんでした。台湾の少年野球は、子どもたちがグラウンドに入るときは礼をします。最近は台湾の子どもたちもマナーを重んじるようになりました。たぶん日本の影響だと思います。私が中学のコーチから教わったことは、道具を大切にすることです」

 

台湾人選手同士の交流

――台湾人選手同士の交流はありますか?

「コロナ前はありました。試合前や遠征時にときどき連絡を取り合って会いました。年1、2回くらいです。球場まで出向いて行って会うのはあまりなかったです」

――選手と集まる時はどんな話をしますか?

「近いとはいえ、異国で野球をやっている仲間ですから、日本での苦労をみんなで分かち合おうと、一緒にお酒を飲んだりして励まし合っています。でも、シーズン中は難しい。1軍と2軍で時間も場所も違うし。会ったら大抵台湾の火鍋を食べます。おしゃべりがしやすいし、食べ放題、飲み放題のコースにすれば料金も安く済みます。あと、個室でやることが多いですね」

 

通訳の甘苦

――台湾人選手は日本のプロ野球に入ってから、何に一番困ると思いますか?

「最初はやはり言葉の問題でしょう。日本語がよくわからないから、ほめられているのか悪口を言われているのか、疑心暗鬼になることがあります」

――通訳をやってよかったこと、苦労したことは?

「よかったことは、選手と一緒に素晴らしい経験ができることです。勝った時の喜びや、負けた時の悔しさは、選手じゃなくても感じます。一緒にやってきた選手が活躍するとやはりうれしいものです。それと、若い選手の成長を見られるのはうれしいですね。選手がつらいときは通訳もつらいです。日本の野球や生活に慣れない若い選手をどうやって支えるかに苦労しました」

――言葉で苦労したことはありますか?

「はい、よくあります。ヒーローインタビューの通訳をする時は選手より緊張します。球場に響き渡るスピーカーの音が聞き取りにくいんです。ですから、聞こえた中国語を頭の中でつなぎ合わせて通訳します。横浜ベイスターズで通訳をやっていた時、選手が緊張しすぎて何をしゃべっているかよくわからなかったし、同じことを何度も繰り返したんです。その時は彼のその時の気持ちをファンに伝えました。ヒーローインタビューの時は緊張するので、言葉が長くなって訳しにくいです。でも、選手が一番言いたい大事な言葉は必ず訳すようにしています」

――監督やコーチからの指示や指導の通訳はどうですか?

「これは野球用語だから1年目でもそれほど難しくないです。2年目になると監督やコーチも何とかうまくコミュニケーションを取ろうとするので、その選手にわかるように話してくれます。難しい言葉を使わなくなります」

――台湾でも野球用語は日本語を使っていますか?

「はい。だから日本のプロ野球で相手に知られたくない時は、敢えて中国語を使ってわからなくしています」

 

野球少年たちへ

――台湾の大学野球選手の将来の夢は、やはりプロ入りですか?

「いいえ、プロを目指している人はあまりいません。1チームに3、4人くらいです。社会人野球や学校の野球部コーチなど、野球に関わり続けたいと思っている人が多いです。会社員や先生になる人もいます」

――日台の野球少年たちに言いたいことがありますか?

「野球に限らず、自分の夢を持つことが大切です。何でもチャレンジして欲しい。そして目の前のことを一生懸命やってほしい。小学校から野球をやっていると視野が狭くなることがあります。人として成長することが何より大切です」

――本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。


 


 


 

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