2022-08-15 政治・国際

中国の対台湾経済制裁の影響は極めて限定的 「極端な措置は自国にとって確実に逆効果」

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注目ポイント

ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台に激高した中国は、すぐさま台湾に経済制裁を発動したものの、実質的には苦痛を与えるものではなかった。というのも、「圧力を高めることは、中国自身の経済に打撃を与えることになりかねない」からだ、と米紙ニューヨーク・タイムズが分析した。

今月2日のペロシ米下院議長の台湾訪問に対する報復として、中国は台湾周辺で実弾を使った大規模な軍事演習を実施し、双方の貿易を一部停止した。専門家によると、軍事演習により一部の輸送には混乱が生じたものの、台湾や中国の港の交通に影響はなかった。さらに、貿易禁止の対象は、中国の製造業にとって重要なサプライヤーである台湾の強力な半導体産業を対象にしなかった。

中国が台湾に課した制裁措置は、中国産天然砂の輸出禁止や、台湾産柑橘類や2種類の魚の輸入禁止に限定されたもので、台湾の経済を揺るがすものでないことは明白だ。実際、台湾南部の果物輸出業者は、「中国による台湾産柑橘類の輸入禁止は大した問題ではない」とし、同業者の輸出先は主に日本で、「中国市場に依存していない」と説明した。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、中国は台湾にとって最大の貿易相手国だが、中国政府が経済制裁の対象にできるアイテムは限られているという。理由は、半導体の輸入禁止や台湾の港湾の完全封鎖など極端な措置を講じれば、中国経済にとって確実に痛手となり逆効果になるからだ。

シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所の政治学者ウィリアム・チュン氏は同紙に、ペロシ氏の訪問をめぐる中国政府の「怒り」がもたらした全てについて、中台関係は2、3か月以内に正常に戻る可能性が高いと推測。「中国が台湾に対して懲罰的な経済措置と制裁を実施することは、相当な痛みを伴うからだ」と分析した。

一方、台湾の輸出業者は、地政学的緊張が高い時期に中国と取り引きを行うことはリスクが伴うことを再確認したという。その上で、台湾政府の元貿易交渉官のチャオ・チュン氏は、「経済的打撃よりも政治的メッセージのほうが大きい」と述べた。

例えば、台湾が輸入する砂利と砂の約90%は中国からだが、そのほとんどは加工されたもので、今年上半期に台湾が輸入した天然砂のうち、中国産はわずか約11%だった。

また、中国が今回規制を課した台湾産の冷却処理を施したタチウオと冷凍アジは合計約2200万ドル(約30億円)分で、今年初めに中国が輸入禁止にした台湾産ハタの貿易額の半分以下だ。そんな中、台湾漁業の中国依存もすでに低下しているという。

5億ドル(約667億)規模の柑橘類についても、中国への出荷量は総農産物輸出のわずか1・1%。中国政府が柑橘類農家をターゲットに絞った理由は、ほとんどの果樹園が台湾南部にあり、中国政府の怒りの対象である与党・民主進歩党の本拠地であるからだとの見解が有力だ。

今後の経済措置は、民進党の拠点地域の産業を狙う可能性があると米ペンシルベニア大学の台湾専門家トーマス・J・シャタック氏は指摘する。また、親中とされる野党・国民党が政権を担う地方には報復圧力を減らすことで、台湾の地方選、さらには国政選挙にまで影響力を及ぼすことを企んでいると同氏は示唆した。

一方、台湾の製造業、特に半導体産業からの輸入を禁止しないという中国の決定は、経済報復の〝非常に選択的な戦略〟だと台湾のトップ研究機関である中央研究院のクリスティーナ・ライ研究員は解説する。「今のところ、中国の強制的な措置は本質的に象徴的なものに見える」とライ氏は述べた。

台湾の半導体産業は、スマートフォンや自動車、その他の現代生活に欠かせない製品製造のためのグローバルサプライチェーンの中で、ますます中心点役割を果たしている。例えば、半導体受託製造企業である台湾積体電路製造は、最先端半導体の世界シェア約90%を占め、それらを中国と西側諸国の両方に供給している。

シャタック氏は今後、有事の際や経済の報復合戦が行われたとしても、台湾の半導体産業だけは〝オフリミット〟になるだろうと指摘。その理由は単純だ。中国はほかの国同様、台湾の半導体を必要としているからだと説明した。

「もし、本当に中国政府が軍事圧力によって台湾を再統一に追い込み、侵略を回避できると考えているなら、台湾の強力で健全な半導体産業は、最終的に〝統一された中国〟で経済を後押しするだろう」と付け加えた。

中国の経済制裁による圧力の限界が露呈する中、中国人民解放軍は台湾の封鎖を想定した4日間の軍事演習を先週実施した。

だが、シンガポールのデータ分析会社ライナーリティカによると、演習の一部は海洋交通の重要な動脈である台湾海峡で行われたが、台湾や中国南部の港へのアクセスを妨げることはなかったという。

先週、中国軍の演習により台湾海峡を回避した船舶は、12時間~18時間の遅れに直面することになったが、その程度なら大した問題にはならないと国際海運協会「Bimco」のアナリスト、ニールス・ラスムッセン氏はニューヨーク・タイムズ紙にそう語った。

同氏は中国が将来、緊張を高めた場合、自国の経済だけでなく、貿易相手の日本、韓国、欧州、米国との関係をも危険にさらすことになるとした上で、「中国がそういう行動を取るとは考え難い」と指摘。「ただ、ロシアがウクライナを侵攻するとは思ってもいなかったことも事実だ」と警戒感を示した。


 

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