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ここ数十年で世界的に気温が一気に上昇し、それと共に感染症の発生数が激増。 SARS、MERS、ジカ熱、西ナイル熱、新型コロナウイルス、そして今ではサル痘やポリオの集団発生が公衆衛生を脅かしている。地球温暖化がもたらす感染症急増の現状と未来を米誌「タイム」が検証した。
地球温暖化により感染症が増加しているが、タイム誌はそれが偶然ではないと指摘する。8月に英科学誌「ネイチャー・クライメイト・チェンジ」が掲載した研究によると、地球温暖化、海面上昇、暴風雨、洪水、干ばつ、熱波など、温室効果ガスの排出量の増加に関連する主な環境変化と、ウイルスや細菌、その他の病原体によって引き起こされる375種類の感染症との因果関係を調査したところ、58%が気候変動によって引き起こされていることが分かった。
「気候変動の健康への影響は、まさにこれだ」と米ミネソタ大学医学部助教授のヴィシュヌ・ラーリサ・スラパネニ博士は指摘する。
研究者によると、ウイルスやその他の病原体自体は、より高い環境温度にすぐには適応しないが、代わりに、地球の気温上昇により蚊などの昆虫を含む多くの病原体を運ぶ生物の地理的範囲が急速に拡大し、その結果として感染症を広げている。
また、米ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターのジジ・グロンバル上級研究員は、「ウイルスがより快適な気候を求めて移動するにつれ、他の哺乳類に、そしてそれらの哺乳類の一部から人間に感染する機会が増える」とも指摘。高速道路、航空機、電車が世界の遠隔地を結ぶのと同じように、これらの動物は微生物を新たな場所に輸送している。
ダニ媒介性疾患は、気候が人間の健康に与える影響の一例だ。気温の上昇に伴い、マダニの生息に適した環境はさらに北に広がり、例えば、カナダの最東端ノバスコシア州にまで及んでいる。カナダではマダニが媒介するライム病の症例は2020年まで報告されていなかったという。
海水温の上昇もまた、ビブリオ属の〝人食いバクテリア〟を含む危険な病原体の増殖を可能にしている。これらのバクテリアによる感染症は最近増加傾向だとされる。
オランダの医学誌「ランセット」が21年に発表した報告書では、43の保健や気候に関わる学術組織と国連機関から選出された専門家によるグループが、病原体の役割を含め、人間の健康に与える環境効果の指標を分析。コレラ菌や腸炎ビブリオなどビブリオ属に分類されるバクテリアが増殖されている海岸での量は、米国の北東部では25%、太平洋岸の北西部で4%増加していることが判明した。
一方、地球温暖化に伴い、蚊はかつてないほど北に進出している。蚊が媒介するデング熱などの典型的な熱帯地域の病気は、遠く離れたニューヨーク市などでも報告され、ジカ熱や黄熱病の原因となるものを含め、これらの昆虫が媒介する他の病原体も、以前は一般的ではなかった場所で確認されている。