中国で今、ある反米映画が空前の大ヒットとなっている。朝鮮戦争で激戦となった長津湖の戦いを映画化した「長津湖」という作品で、北朝鮮の援軍として参戦した中国軍が米軍を打ち破るという内容だ。
米芸能誌「バラエティ」によると、「長津湖」は現在、中国映画史上最高の興行収入を連日更新中で、9月末の封切りからすでに累計で1023億円を突破。同時に世界市場でも今年最高の興行収入を記録し、007シリーズ最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」の売上約800億円を大きく超えた。
これまで中国の歴代興行成績1位だったのは2017年の戦争アクション映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」で、約1011億円だった。
また、「長津湖」は製作費も中国映画としては過去最高となる約230億円。中国共産党中央宣伝部などが製作費を拠出したまさにプロパガンダ映画で、同党の結党100周年記念作品でもある。
映画は朝鮮戦争が勃発した1950年末、厳しい寒さの中で12万人の中国兵が、装備に恵まれた米軍と17日間に渡り戦い抜き、最後に敵を北朝鮮から追いやるという中国視点の“勧善懲悪”ものだ。
バラエティ誌によると、中国政府の記者会見でおなじみの趙立堅・中国外交部報道官は映画の成功を称え、主演の呉京(ウー・ジン)を祝福したと伝えた。ちなみに呉は「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」で主演し、監督も務めている。
ロイター通信によると、中国では近年、愛国心の高まりを背景に観客の国内作品シフトが見られるという。
それに加え、来年2月に控えた北京五輪をめぐり、米国が人権問題を盾に外交的ボイコットの呼びかけ、米中関係がさらに悪化。中国国内で反米志向が広がっていることも「長津湖」にとって追い風となったようだ。
「長津湖」の記録的ヒットにより、続編となる「鴨緑江を渡る」(原題)や、これまた朝鮮戦争を舞台にした「狙撃手」(原題)など、2匹目、3匹目のドジョウを狙った戦争アクション映画が次々にラインナップされている。
一方、中国歴代興行成績1位と2位の映画で主演俳優となった呉は、47歳で北京出身。1995年に香港映画「マスター・オブ・リアル・カンフー/大地無限2」でデビューし、サイモン・ヤムやサモ・ハン・キンポーらが出演した「SPL/狼よ静かに死ね」で暗殺者ジェットを演じ、一躍注目された。
15年には中国映画「ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊 vs PLA特殊部隊」を監督し、自ら主演して大ヒットし、「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」はその続編となった。このシリーズの成功により今回、「長津湖」の主人公に抜擢され、今や中国映画界を代表する俳優の一人となっている。