2022-08-17 ライフ

連載「あの街の“正港台湾料理店”」第1回:886食堂(神奈川県横浜市)

注目ポイント

正港とは「正統な、本場の」などを意味する台湾語。「あの街の“正港台湾料理店”」は、日本で台湾の食文化にこだわる料理人のストーリーと食を追い求める連載です。第1回目は、現在は日本に帰化した台湾出身の日野正志さんが横浜にオープンした台湾料理店「886食堂」を訪ねてみました。

横浜中華街のメインストリート、中華街大通りに交差する上海路で今年3月にオープンしたのが「886食堂」だ。886(バーバーリウ)=国際電話で使う台湾の国番号にちなんだ店名の通り、台湾料理を専門としている。

赤い提灯が吊り下げられた台湾情緒あふれる店内に入ると、奥に伸びるカウンター席と、台湾各地の観光スポットや風物が描かれた愛らしいイラストが出迎えてくれる。階段を上った2階にはテーブル席が並び、提灯の装飾とレトロなインテリアが醸し出す雰囲気は九份を彷彿させる。

1階の壁面に描かれたイラストはイラストレーターの佐々木千絵さん、店舗ロゴなどはThe News Lens Japanでも執筆するkeiko在台灣さんが手がけている

「昔は台湾料理店といっても競争相手がいなかった。でも、今は中国人オーナーの台湾料理店も増えています。専門的にやらないとお客さんは満足してくれません」とオーナーの日野正志さん。現在は日本に帰化している日野さんは、台湾北部の現・新竹市生まれ。牧師だった父親の仕事の都合でシンガポールとマレーシアを転々とし、台湾に帰国後、高校を卒業すると当時人気だった広東料理店で料理人人生をスタートさせる。

兵役を経て、1985(昭和60)年当時は給料が「台湾の倍違った」という日本へ。池袋の広東料理店で働き、縁あって水道橋の台湾料理屋(現台南担仔麺西神田店)の総料理長となった。昭和、平成、令和を料理人として生き、今や海南チキンライスの専門店や、担仔麺を看板に掲げた台湾・台南料理店、886食堂など複数の店舗を経営し、母国・台湾にも支店を広げる敏腕経営者でもある。

886食堂のこだわりは、日野さんが幼い頃から親しんできた本場の味を再現すること。頻繁に台湾へ足を運び、自身の記憶や料理人としての経験も生かしながら、ほぼすべてのレシピを日野さん本人が考案している。

台湾の代表的な麺料理の紅焼牛肉麺(880円)は日本人客にもっとも人気。香り高いピリ辛のスープが食欲をそそる

店の看板メニューは「紅焼牛肉麺」。最低4時間は煮込むというスープは、香辛料と漢方薬の配合はもちろん、あるひと手間を加えることで「台湾人でも美味しいとスープを飲み干す」ほどの味わいに。トッピングは低温調理で味付けにしっかり時間をかけた牛の赤肉、牛筋(アキレス腱)、ハチノス(胃袋)から選べ、トマト風味のスープ(番茹牛肉麺)の場合はそれ専用に仕込んだ牛肉を使用する。台湾式の平打ち麺も長年、日野さんが専属契約している製麺所にオリジナルの配合でオーダーするこだわりようだ。

最近は都内でも専門店もちらほら見かけるようになった「台湾麺線」は、旅行ガイドで紹介されるような食べ歩きサイズではなく、ランチやディナーでも満足できるほどのボリューム。台湾黒酢、おろしにんにく、豆板醤を加え、自分好みの味わいにしながら食するのが台湾流だが、豆板醤も台湾豆板醤と複数の四川豆板醤をブレンドするなど、調味料一つにも手を抜かない。

「台湾麺線」(830円)は、ボリュームはあるが腹持ちは軽い。日本人の舌にも馴染むかつおだしのスープは、朝一番、お米を炊くのと同時に仕込み始める
濃厚な豆乳にお酢を加え、口当たりまろやかな「鹹豆漿」(500円)は食欲のない時にもぴったり。一緒にサーブされる自家製油條(揚げパン)は店内で調理され、テイクアウトでまとめ買いするお客も多いという
「地瓜球QQタピオカボール」(400円)。タピオカ粉と芋が素材のスイーツ。企業秘密の揚げ時間と油の温度でモチモチとした食感を実現

実は日野さん、東京近郊で開催されている「台湾祭」を立ち上げた中心人物でもある。2011年9月、中華民国建国100年記念と東日本大震災被災者への支援を目的に、東京の恵比寿ガーデンプレイスで初開催し、以降、台湾の食文化や歴史を広く知ってもらい、台日の関係をより深いものにしたいと、埼玉・越谷レイクタウンや東京タワー、横浜赤レンガ倉庫などで継続開催している。

「競合はコンビニ」と話す日野さんの目下の目標は、セントラルキッチンの導入。各料理店の味のクオリティを担保し、調理作業の負担を軽減することで、886食堂のさらなる店舗展開も計画している。スタッフ総出で、飲茶や排骨飯など新メニューの開発にも余念がない。足繁く通いたくなる店になりそうだ。

店舗概要

名称:886食堂

住所:神奈川県横浜市中区山下町186

営業時間:11:00~15:30(LO15:00)、17:00~20:30(LO20:00)※金・土は22:00まで(LO21:30)

定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜)

席数:1階12席、2階34席

電話番号:045-264-4286

ホームページ:http://www.hainanchifan.com/886shokudou/

あわせて読みたい