注目ポイント
アメリカ下院議長のナンシー・ペロシ氏が、アジア歴訪の一環として8月2日夜に台湾入りしました。大統領権限の継承順位で副大統領に次ぐ要職である下院議長の訪台は25年ぶり。中国の軍事的威嚇が強まる可能性が懸念される一方で、金融市場にも動揺が広がりました。山本一郎さんの緊急寄稿です。
何でペロシさん台湾訪問でこんなに市場が動揺するのか
アメリカ下院議長のナンシー・ペロシさんによる台湾訪問が8月2日にあり、まあ面倒なことになっていたので状況の解説などもしてみたいと思います。
と言っても、一番動揺しているのは安全保障方面というよりは経済・市場方面でありまして、結論から先に申しますと「その訪台、どういうメリットや利益を求めて実現させてしまったの?」というのはあります。単純な話、それなりに危険があるところで訪台を米下院議長が敢行するというのは、ちゃんとした訪台の目的が誰の目から見ても明らかであるべきなところ、実際には「何で訪問してんのか良く分かんない」のでみんな動揺しとるわけですね、相場関係者が。
おかげで、このところドル独歩高的な動きの中で円安に振れていた相場も、結果的に「有事の円買い」という不思議な不文律によって円が買われて130円台にまで戻ってきてしまいました。や、日本円がそこそこ買われるのは悪くないことではあるのでしょうが、世界的に資源高とインフレに併せて不況になっていくよというところで、余計な混乱や不安を市場に与えると不必要に相場が乱高下して良くねえんじゃねえのと思うわけであります。
ペロシさんが台湾に上陸して騒ぎになっていたので台風かよとかネタで遊んでいた向きも、東京だけでなく香港市場も為替相場も混乱になってしまうとみんな真顔になるのもまた台湾というワードの強さ故だと思うんですよね。
もちろん、何でペロシさん台湾訪問でこんなに市場が動揺するのと言われれば、それなりに大人の関係としてアメリカと中国との間の政治的・外交的駆け引きの文脈で見てきた台湾海峡問題が、具体的な安全保障リスクとして見えてしまうことにあります。どこまで中国が踏み込んでくるのか衆人環視の中でペロシさんが台湾を訪問すること『そのもの』に事件的価値があるってことなんですよね。
中国からすれば、ひとつの中国『原則』に忠実である点については、本連載でも書いてきましたが中国外交の基本原則であり、2000年の中国政府の白書「一つの中国原則と台湾問題」にもある通り、(1) 世界で中国はただ一つであり、(2) 台湾は中国の不可分の一部であって、(3) 中国共産党率いる中国(中華人民共和国)はその中国を代表する唯一の合法政府である、という三段論法によって成り立っています。台湾が中国にとって大事なのは、この中国によるひとつの中国『原則』で台湾が実は独立した民主主義国家でしたということを世界的に認められてしまうと、メンツの問題を超えて中国国内の統治の正統性さえも失われかねない大事件になるからでもあります。