2022-07-25 政治・国際

ウクライナ戦争で存在感示すトルコ大統領 エルドアン氏はバイデン政権の悩みの種

© Photo Credit: Reuters /達志影像 

注目ポイント

ロシアがウクライナの穀物輸出阻止を解除することで両国が22日に合意した裏には、トルコのエルドアン大統領による仲介があった。エルドアン氏は、両国の代表をイスタンブールにそびえるオスマン帝国の宮殿に招き、そこでグテーレス国連事務総長の隣に座り、この合意は「人類全体に利益をもたらす」と強調し、自らの存在感の大きさを示してみせた。だが、米バイデン政権にとって、エルドアン氏は大きな頭痛の種になっていると米紙ニューヨーク・タイムズが伝えている。その理由とは―。

バイデン政権は、ロシアによるウクライナ侵攻と港の封鎖で深刻化した世界的な食糧危機を打開できる見通しとなったとしてこの合意を歓迎。だが、ホワイトハウス高官らは、ロシアが誠実に対応することはあり得ないと懐疑的な見方を示し、その懸念通り、ロシアは合意から1日も経たないうちにウクライナ最大の港湾都市オデーサをミサイル攻撃し、ウクライナを激怒させた。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、穀物会議の数日前、エルドアン氏は再びNATO(北大西洋条約機構)が今後数か月以内にスウェーデンとフィンランドを新たな加盟国として受け入れる計画に反対する姿勢をちらつかせた。そんなエルドアン氏に対し、先月スペインで開催されたNATO首脳会合で、数十機のF16戦闘機をトルコに販売するというバイデン氏の公約について、米議会は不安をあらわにした。

19日にエルドアン氏はイランの指導者ライシ師とロシアのプーチン大統領の両者と会談するため、テヘランを訪問。米国最大の敵国、ロシアとイランのリーダーと、NATO加盟国のトップであるエルドアン氏の3人が一緒に収まった写真は、「世界から孤立したイランとロシア」という西側の主張と矛盾するような構図になったと専門家は指摘した。

そして22日、トルコがテロリストとみなし、米国が支援するクルド人勢力を標的にし、シリア北部への新たな攻撃を開始するというエルドアン氏の強硬姿勢に、ホワイトハウス報道官は米国政府の懸念を繰り返した。これは西側同盟国と対立するにもかかわらずNATO同盟国だというトルコの特異な立場を示し、米国にとっては腹立たしい存在なのだ。

だが、バイデン政権のある高官は、エルドアン氏を完全に排除することは自滅的な結果を招くという。東西の交差点としてトルコの地政学的立場は戦略的に重要であり、ウクライナの穀物輸出のため、黒海を経由する非軍事回廊を作成したように、エルドアン氏は、厄介な隣人と対話ができる能力があるからだ。

米高官は、エルドアン氏の問題行動の多くは、先月物価インフレ率がほぼ80%にまで達したトルコでの同氏の政治的弱さを反映したものだと指摘。エルドアン氏は、経済政策の失敗から国民の目をそらすため、トルコのクルド人分離主義運動であるクルド労働者党(PKK)とシリアのクルド人グループからの脅威を強調し、ナショナリズムとデマゴギーに転換しようとしていると分析する。

スウェーデンとフィンランドのNATO加盟問題もその一環だ。北欧2国の加盟には加盟30か国メンバーによる全会一致が必要で、バイデン氏は5月、対プーチンの大きな戦略的打撃となる両国のNATO加盟を「迅速に進めるべき」だと求めた。だが、エルドアン氏は、米国がテロ組織指定したPKKを北欧2国が政治的および財政的支援をしていると不満をぶちまけた。

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