2022-07-25 政治・国際

「戦争状態」にある台湾の交通環境(後編)

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注目ポイント

その劣悪さから「戦争状態」とも称される台湾の交通環境を考察する前後編の後編。行政レベルでも常態化している自己責任論や、問題の原因を超自然的な現象と結びつけようとする神秘化を巡るトラブル、歩行者やバイク利用者を置き去りにした車優先の政策などを引き合いに出しながら解決の道筋を探る。

台湾の歩道は「標線式歩道」というものが多い。この標線式歩道とは、道路の端に線を描き、緑色に塗り、「歩道(人行道)」と書いたものだ。私もよくこの標線式歩道を利用するが、やはり何も守りがない道路沿いを歩いているだけで、あまり歩道で歩いている実感はない。私の至近距離で車両は通っていき、さらには車両が堂々と標線式歩道で通行していることもある。実際、この標線式歩道は歩道の機能を果たしているとは言い難く、ひいては自動車の無料駐車スペースと化している。

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図:台湾の標線式歩道と駐車違反のバイク(提供:我是台灣行人 I’m a pedestrian in Taiwan

台湾の街中で歩いていると、後ろから来る車両に注意したり、違反駐車の車両を避けたりと、いつも何かに警戒する必要がある。そのためにも歩道は不可欠だが、ただ路面を着色したものでは物足りない。やはり、歩道を立体化したり、ガードレールを設置したりと、物理的に歩行者と車両を分ける必要がある。

もちろん台湾でも立体歩道はあるが、前編でも示した通り、そこには電柱、地上変圧器、無断駐車しているバイクや車など、障害物で溢れている。これは主にEngineering(交通管理・交通工学的手法)の問題だが、同時にEnforcement(法の執行)の問題にも当てはまる。

 

・「大駐車違反時代」「駐車違反地獄」に突入する台湾

最後にEnforcement(法の執行)についてだ。ここでは、台湾の駐車違反とその取り締まりをめぐる出来事について紹介する。

台湾の駐車違反問題は深刻だ。実際街中を見てみると、ところどころ駐車禁止が明示されている路上で自動車が堂々と停まっている。路上での違反駐車により、道幅が狭くなり、道路混雑の原因となるのは自明だ。

しかしそれだけではなく、違反駐車は「ステルスキラー(見えない殺し屋)」とも呼ばれ、駐車車両への衝突や、駐車車両によって危険が察知できなくなるなど、交通事故を起こす大きな要因でもある。実際台湾では数えきれないほど多くの事故は、違法駐車によって引き起こされた。

台湾警政署(日本の警察庁にあたる)の統計によると、2020年台湾での駐車違反の検挙件数は約520万件に上り、道路交通違反全体の中で最も大きな割合を占めている。これまで、台湾では個人単位で違反駐車を始めとする交通違反を通報することができた。2020年の統計では、個人による交通違反の通報は約600万件に上る。このありえないほど高い数字は、言うまでもない、警察による取り締まりの機能不全を顕著にしている。

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