注目ポイント
その劣悪さから「戦争状態」とも称される台湾の交通環境を考察する前後編の後編。行政レベルでも常態化している自己責任論や、問題の原因を超自然的な現象と結びつけようとする神秘化を巡るトラブル、歩行者やバイク利用者を置き去りにした車優先の政策などを引き合いに出しながら解決の道筋を探る。
私は公共政策の専門ではなく、そして文字数の関係上、ここでは3Eに関する提言を網羅的に行うことができない。ただ、この3Eの視点を台湾の現状に照らし合わせると、いくつか歪な現象が見えてくる。以下ではそれを紹介していく。
・台湾人の成人式:バイク免許試験
台湾人は18歳になると、一斉にバイク(50~250ccの二輪)の免許試験を受けに行く慣習がある。これに関して後述するが、台湾で生活するにあたり(特に台北以外)、バイクは移動のための必要不可欠な乗り物である。よって18歳を節目に、人々はバイクの免許を取り、自立して移動できる「成人」となっていく。
興味深いことに、台湾では教習所に通わず、大体の人は一発試験で受け、免許を獲得してく。逆にバイク免許を取るために教習所に通うと笑われる節がある。さらに、台湾ではバイクを運転してバイク免許の試験会場に向かう人もいる、これはもはや一つの風物詩となっている。
図:二輪運転免許の試験を待つ若い受験生たち(筆者撮影)
これらは日本人からすれば不可解なものだろう。
日本で250cc以下のバイク試験を受けるのならば、15万〜20万円弱という多額の金額を払い、長い技能・学科教習を経てから免許を所得する。しかし、台湾では18歳になれば、教習所に通わず、2日ほどかけて自分で学科の内容を丸暗記し、250台湾ドル(日本円1100円ほど)の受験費用さえ払えば受験でき、大体はそれで免許を獲得していく。ここ数年で台湾政府は徐々に運転免許試験の難易度を上げているが、やはり他国と比べるとその取得コストは圧倒的に低い。
また、日本では免許取得後、2、3年に1一回ほど免許の更新を行い、交通安全講習を受ける必要がある。逆に台湾では車・バイクの免許を取得したら、更新する必要がなく、半永久的に使える。
これらで明らかになったのは、Education(教育)の側面にあたる運転者教育制度の不備だろう。台湾の交通部公路総局の統計によると、2020年の台湾で二輪運転免許保有者数は1497万人に達する。そして、台湾の2020年の交通事故件数は約36万件であり、その中でバイクと関係する事故は約20万件と全体の半数以上を占めている。こうしたバイクの事故率の高さは道路設計や都市設計にも問題があるが、やはり大きな要因となる運転者教育制度を見直さなければいけない。
・台湾の歩道=無料駐車スペース
次に、Engineering(交通管理・交通工学的手法)についてだ。台湾では信号機の秒数、区画線標示、標識、歩道の設置などの道路設計に関して、多くの問題点を挙げることができる。ただこれはケースバイケースであり、言い出すとキリがなく、これはやはり現地に住んでいる有識者が積極的に提案を行う必要がある。よって本稿では前編でも示した通り、歩行者の立場にたって、歩道の設計に関して考えていきたい。