注目ポイント
その劣悪さから「戦争状態」とも称される台湾の交通環境を考察する前後編の後編。行政レベルでも常態化している自己責任論や、問題の原因を超自然的な現象と結びつけようとする神秘化を巡るトラブル、歩行者やバイク利用者を置き去りにした車優先の政策などを引き合いに出しながら解決の道筋を探る。
有名な事例を一つ紹介しよう。台湾の花蓮県政府は、毎年約3000万台湾ドルの予算を組み、各宗教団体(佛教、道教、プロテスタント、カトリック、原住民祖霊など)を誘致し、「五教合一」と題する県を挙げた大きなお祈り活動を行う。
図:五教合一祭天祈福遶境活動(引用:花蓮県政府)
そして、花蓮県政府が2021年に可決した予算案では、「五教合一」活動に1800万台湾ドルの予算を追加し、道路安全をお祈りする「路祭」を行おうとした。内容としては、花蓮県で交通事故が発生した道路で儀式を行い、道路にある「祟り」を鎮めるといったものだ。
このことが発覚してまもなく、花蓮県政府は多方面から「祈る前に道路環境の改善に税金を使え」といったバッシングを浴びた。結果、圧力に耐えられなくなった花蓮県政府は「路祭」を取り消したのであった。
以上、個人化と神秘化について紹介してみた。もちろん全てがこの二つの分類に当てはめることはできないが、このように提示したのは、やはり台湾における交通問題の責任の行方は度々私的な次元にとどまっていることを指摘したい。
また、台湾の交通環境を論じる時、よく「モラル」や「文化」の問題として扱われる傾向がある。もちろん文化的な問題もあることは私も重々承知だ。しかし、ただ単に「台湾の国民性は〜だから」と言うのは、議論をぼやけさせる危険性を持つ。
ここで言いたいことは、意識批判だけでなく、意識を規定しうる外部環境も指摘しなければ、根本的な問題解決につながらないことだ。つまり、私的な次元を超えて、制度設計/道路設計/都市設計を行う主体である行政に責任を問わなければならない。
●解決の道筋-3E対策
台湾では様々な要素が絡み合い、今の劣悪な交通環境を作り出している。ではこれに対しどう考え、何を求めるべきか。
1950年代日本で交通戦争が問題視され始めた頃、関係者の間で交通安全の対策として「3E対策」を提唱した。3Eとは以下の三つを指す。
・Engineering(交通管理・交通工学的手法)
・Enforcement(法の執行)
・Education(教育)
まず、Engineering(交通管理・交通工学的手法)とは、交通安全施設等の整備、交通情報の提供についてだ。例えば信号機、道路標識、歩道、区画線などの設置がある。次にEnforcement(法の執行)は、具体的に交通指導、取り締まり、交通事故事件捜査がある。最後Education(教育)は、運転者教育(免許試験、講習)、歩行者や自転車の利用者教育などがある。この3Eを交通安全対策の三位一体なものとし、良質な循環を目指すというものだ。