注目ポイント
その劣悪さから「戦争状態」とも称される台湾の交通環境を考察する前後編の後編。行政レベルでも常態化している自己責任論や、問題の原因を超自然的な現象と結びつけようとする神秘化を巡るトラブル、歩行者やバイク利用者を置き去りにした車優先の政策などを引き合いに出しながら解決の道筋を探る。
本稿は前後編の後編にあたる。前編では、データを用いて、台湾では一生のうち交通事故で1回以上負傷する確率が8割に上ることを指摘した。そして、1970年代日本では「交通戦争」と呼ばれた状態があったように、2020年代の台湾の交通環境も「戦争状態」であると指摘した。また、こうした劣悪な環境は「弱肉強食の世界」であると指摘した。
後編では、前編の前提知識をもとに掘り下げていく。まずは、①個人化②神秘化という分類を通して、台湾における交通環境の責任問題について語る。次に、解決策としての「3E対策案」を取り上げ、この3Eの視点を台湾の現状に照らし合わせて考える。そして、台湾の「バイク問題」について、高いバイク保有率の背後にある原因について考え、バイク利用者による社会運動を取り上げる。本稿の最後では、「クルマ社会」そのものについて再考していく。
●責任の行方
台湾では交通事故が起きた際、「意外が起きた(發生了意外)」と表現することがよくある。この表現から考えられるのは、台湾での交通事故は単に「偶然の悲劇」の意味合いとして扱われている側面だ。
私がここで問題提起したいのは、こうして「偶然」や「意外」として交通事故を扱うことによって、どれくらい人為的な要素が捨象され、見るべきものを見えなくさせているのか。
「我是台灣行人 I’m a pedestrian in Taiwan」によると、台湾では交通事故に対して、①個人化、②神秘化の2点に結論づける傾向があるという。この指摘は興味深く、以下この2点に即して肉付けしながら紹介していく。
・個人化
まず、①個人化についてだ。これはつまり、「事故を起こすのは、あなたの不注意が原因だ」と、交通問題が自己責任論に落とし込まれることだ。民間ではこうして考えることは幾分仕方がない、しかし、行政レベルでもこうした節があることを否めない。
今年の6月末、台湾高雄市で自転車走行中の女性がダンプカーに轢かれて死亡した事故が起きた。事故が起きた十字路は事故多発地帯であるが、警察側はこの事故に対して「道路利用者は交通ルールを守り、大型車の死角や内輪差に注意し、事故を防ぐ必要がある。また、速度検知や技術的な取り締まりを強化していく」との旨のコメントを残した。
これに対し、「高雄好過日」協会は、「繰り返される交通死亡事故は、弱者のせいにすべきではない」と題する投稿をし、1.この事故は速度違反とは無関係である、2.大型車の死角問題は道路設計や車両設計で解決すべき、3.事故回避の責任は交通弱者に押し付けてはならない、と指摘した。下の図は高雄好過日協会が提案した道路設計の改善案だ。
